【1837】 ○ 森村 泰昌/藤森 照信/芸術新潮編集部 『フリーダ・カーロのざわめき (とんぼの本)』 (2007/09 新潮社) ★★★★ (○ クリスティーナ・ビュリュス (監修:堀尾 真紀子) 『フリーダ・カーロ―痛みこそ、わが真実 (「知の再発見」双書)』 (2008/12 創元社) ★★★★)

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「フリーダは人生も凄いけど、絵もおもしろい!」

フリーダ・カーロのざわめき.jpg とんぼの本  フリーダ・カーロ―痛みこそ、わが真実.jpg 「知の再発見」双書    フリーダ・カーロ 愛と芸術に捧げた生涯.jpg DVD
フリーダ・カーロのざわめき (とんぼの本)』『フリーダ・カーロ―痛みこそ、わが真実 (「知の再発見」双書)』「愛と芸術に捧げた生涯 [DVD]

フリーダ・カーロ.jpg 『フリーダ・カーロのざわめき』は、森村泰昌氏による序文及び第1章「フリーダをめぐる12のざわめき」と、芸術新潮編集部による第2章「苦痛と快楽に生きた47年」及び第3章「永遠のフリーダ」の3章構成で、2章と3章の間に建築が専門の藤森照信のフリーダが住んだ「青い家」訪問記が入るという構成で、なぜこうした構成になっているかというと、本書が、「芸術新潮」の2003年9月号のフリーダ・カーロ特集から抜粋して新潮社の「とんぼの本」に移植したものであるためです。

 何と言っても、フリーダ・カーロの作品を通して、その生い立ちから波乱と苦悩に満ちた人生を浮き彫りにし、また、作品の分かりやすい分析を通して彼女の心象風景に迫る森村泰昌氏の語りが圧巻で、まさに氏が序文で「フリーダは人生も凄いけど、絵もおもしろい!」と言っているだけのことはあります。

フリーダ・カーロ4.jpgフリーダ・カーロ(Frida Kahlo、1907-1954/享年47)

フリーダ・カーロ01.jpg 絵筆に生き、恋に生きたフリーダの生涯における男性遍歴は華々しいものがありますが(晩年病臥に伏し、男性とのセックスができなくなると今度は同性愛に耽った)、やはり生涯を通してみれば2度結婚したメキシコの壁画の巨匠ディエゴ・リベラが真の伴侶だったことが窺え(ディエゴ・リベラもフリーダの妹との不倫などで彼女を悩ませたりしたのだが)、触れると火傷しそうな情熱の塊のような女性だったフリーダを相手にするには、彼ぐらいのふてぶてしさを持った大物でなければ手に負えなかったのかも。

Frida Kahlo,Diego Rivera 1932

 元々フリーダは彼の追っかけだったわけですが、追っかけ対象のディエゴ・リベラ自身が自分よりフリーダの方が絵が上手いと絶賛していたとのこと、没後の両者の世界的な認知度は完全に逆転し、フリーダの方が上にきています。

 本書が、雑誌から移植であるため構成にやや一貫性を欠き、重複した記述も見られるのに対し、「知の発見」双書の『フリーダ・カーロ―痛みこそ、わが真実』は、訳本ながらも一人の著者によるフリーダ・カーロの人生及び作品解説となっており、入門書としてはこちらの方がオーソドックスで一貫性もあります。同じくビジュアル系叢書であるため、掲載作品も『フリーダ・カーロのざわめき』同様に豊富ですが、ただ判型がやや小ぶりであるため、絵がやや小さいのが難点か。

 フリーダ・カーロの生涯は映画化もされ、記録映画もありますが、「フリーダ・カーロ 愛と芸術に捧げた生涯」(The Life and Times of Frida Kahlo、2004)は、DVD入手可能なTV用ドキュメンタリー作品です。

 フリーダに関係した人物の証言をもとに彼女の人生を辿り、更に彼女の作品も紹介していますが、冒頭に出てくるのがカルロス・フエンテス(1928-2012/享年83)で(肩書がライターになっているが、この人、ノーベル文学賞クラスと言っていい大作家)、彼が語る、「椿姫」のオペラが上演された劇場で、芝居よりも観客として来ていたフリーダの方が周囲を圧倒していたといったエピソードは面白く、その彼が、フリーダの生涯やその作品の意義をメキシコの歴史なども併せて解説し、その他に、すでに高齢となった「フリーダの生徒」だった人たちの証言が続きます。

フリーダ・カーロ 1.jpg また、『フリーダ・カーロ―痛みこそ、わが真実』に詳しく書かれている、彼女が18歳の時に遭遇した、通学バスに路面電車が衝突して死傷者が出、彼女自身、バスの手摺りが腹部を貫通して脊椎が砕かれるという大怪我を追った事故についても映像で紹介されており、更にフリーダ自身も記録フィルム的に登場し、夫であるディエゴ・リベラがアメリカに招かれ壁画創作の仕事をする間、その傍らの工事現場の櫓のような場所で本を読んでいるフリーダや、レオン・トロツキーと立ち話するフリーダなど、"動いている"フリーダが見られるのは貴重であり、また、容貌やファッションだけでなく、その立ち振る舞いが非常に女性的で洗練されていたことが窺えます。

フリーダ・カーロ 2.jpg フリーダ・カーロの母親はメキシコ人(母親の両親はメキシコ先住民とスペイン人)で父親はドイツ人(父親の両親はユダヤ系ハンガリー人)であり、その出自を通してフリーダの絵画に表されたメキシコ的な要素と西洋的な要素を『フリーダ・カーロのざわめき』において森村泰昌氏が鋭く分析していますが、この記録映画においても、フリーダの絵画はメキシコの国民的壁画家であったディエゴ・リベラ以上にメキシコの土着性に根付いたものであったことを指摘する一方で、夫に付き添って訪れたアメリカの各都市やパリの地で、彼女が欧米的な文化にごく自然に馴染んでいったことも紹介されているのが興味深かったです。

 せっかくの映像化作品なので、もう少し、フリーダ・カーロの作品を取り上げて欲しかった気もしますが、エンドロールのバックでクリスティーズのオークション会場で彼女の自画像がオークションにかけられている映像が流れ、最初に100万ドルの値が付き、その後どんどんセリ上がっていくところで終わっていて、生前それほど評価されなかった彼女の作品が、死後にオークション記録を次々と塗り替えていくほどの高評価を得たことを象徴的に表していました。

フリーダ・カーロ 愛と芸術に捧げた生涯  c.jpgフリーダ・カーロ 愛と芸術に捧げた生涯  .jpg「フリーダ・カーロ 愛と芸術に捧げた生涯」●原題:THE LIFE AND TIMES OF FRIDA KAHLO●制作年:2004年●制作国:アメリカ●監督:エイミー・ステッチラー●時間:86分●出演:フリーダ・カーロ/ディエゴ・リベラ/レオン・トロツキー/カルロス・フエンテス●日本発売:2006/09●DVD販売:アップリンク(評価:★★★★)

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