【1826】 ○ 立花 隆/佐藤 勝彦ほか (自然科学研究機構:編) 『地球外生命 9の論点―存在可能性を最新研究から考える』 (2012/06 講談社ブルーバックス) ★★★☆

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個々のテーマについて掘り下げて書かれているのはいいが、横の繋がりが今一つという気も。

地球外生命 9の論点 (ブルーバックス).jpg地球外生命 9の論点 (ブルーバックス)』['12年]

 少し以前までは、学者が地球外生命を論じるのは科学的でないとしてタブー視されていたようですが、どちらかと言うとよりこのテーマに近い専門家である生物学者らの、地球に生命が誕生したのは奇跡であって、地球以外では生命の発生はあり得ないとする《悲観論》が、宇宙のどこかには地球の生命とは別の生命が存在するのではないかという宇宙学における《楽観論》を凌駕してきたということもあったかもしれません。

 それが近年、系外惑星が候補も含め3千個以上発見されているとか、太陽系内にも水がある衛星やかつて水があった惑星がある可能性があるといった天文学者の指摘や、隕石や宇宙空間から有機物が発見されているという新事実から、生物学者の中にも生命の生成が地球外でもあり得るとの仮説を検証しようという動きが出てきたように思われます。

 そうした意味では、生物学者、物理学者らが、それぞれの専門的視点から地球外生命の存在を考察している本書は、学際的な切り口として大変興味深いものがあります。

 9人の専門家(加えて、立花隆氏と宇宙物理学者の佐藤勝彦氏が寄稿)が考察する9つの論点は次の通り。
  1.極限生物に見る地球外生命の可能性 (長沼毅)
  2.光合成に見る地球の生命の絶妙さ (皆川純)
  3.RNAワールド仮説が意味するもの (菅裕明)
  4.生命は意外に簡単に誕生した (山岸明彦)
  5.共生なくしてわれわれはなかった (重信秀治)
  6.生命の材料は宇宙からきたのか (小林憲正)
  7.世界初の星間アミノ酸検出への課題 (大石雅寿)
  8.太陽系内に生命の可能性を探す (佐々木晶)
  9.宇宙には「地球」がたくさんある (田村元秀)

 う~ん。もう、これまで地球外生命の存在に慎重だった生物学者側の方も、今や《楽観論》が主流になりつつあるのかな。
 
 かつて水があった惑星の最有力候補は火星であり、こうなると、地球生命の起源は火星にあるのかも知れないと―(彗星や隕石が火星の有機物を地球に運んできた)。

 但し、本書によれば、海底の熱水噴出孔近くなどの特異な環境で生きる生物の実態が近年少しずつ分かってきており、こうなると、まず地球単独で生命を生み出す条件を揃えていることになったりもして、火星から有機物をわざわざ持ってこなくともいいわけです。

 もちろん、太陽系内で液体の水や火山活動など生命が存在しうる環境が見つかってきていることも、大いに関心は持たれますが、一方、太陽系外となると、生命存在の可能性はあっても、地球に到達する可能性という面で厳しそうだなあと。
 ましてや、知的生命体との遭遇なると、本書にも出てくる「ドレイク方程式」でよく問題にされる「生命進化に必要な時間」と「高度な文明が存在する時間の長さ」がネックになるかなあと。

 まあ、この辺りは不可知論からロマンはいつまでもロマンのままであって欲しいという情緒論に行ってしまいがちですが、これ、一般人に限らず、本書に寄稿している学者の中にもそうした傾向が見られたりするのが興味深いです(やっぱり、自分が生きている間にどれぐらいのことが分かるか―というのが一つの基準になっているのだろうなあ)。

 個々のテーマについて掘り下げて書かれているのはいいけれど、横の繋がりが今一つという気もしました(本当の意味での"学際的"状況になっていない?長沼毅氏以外は、専ら研究者であり、一般向けの本をあまり書いていないということもあるのか)。結局、まだ学問のフィールドとして市民権を得ていないということなんでしょうね。でも、各々のフィールドでの研究は着々と進んでいる印象を受けました。
 
 「自然科学研究機構」というのは、国立天文台、核融合科学研究所、基礎生物学研究所、生理学研究所、分子科学研究所の5研究機関から構成される大学共同利用機関法人で(大学院もある)、「異なる分野間の垣根を越えた先端的な新領域を開拓することにより、21世紀の新しい学問を創造し、社会へ貢献することを目指して」いる団体とのことで、こうしたコラボを継続していくのでしょうね。現機構長である佐藤勝彦氏に期待したいところ。

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This page contains a single entry by wada published on 2013年1月 4日 00:11.

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