【1824】 ○ 牛島 定信 『パーソナリティ障害とは何か (2012/11 講談社現代新書) ★★★☆

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障害の体系というものを意識すると意外と難しいかも。中級以上向けの「入門書」?

パーソナリティ障害とは何か 講談社現代新書.jpgパーソナリティ障害とは何か (講談社現代新書)

 本書におけるパーソナリティ障害の各タイプの「個々の説明」は比較的分かり易かったのですが、所々突然難しくなる部分もあったりして、特に最初の方のパーソナリティ障害の「体系の説明」が難しかった...。

 そもそも、DSM‐Ⅳ(米国精神医学会の診断基準)に定義される10タイプの人格障害を、本書では以下の通りに組み直したと冒頭にあり、ごく簡単な説明のもとにこれをいきなり示されても、初学者にはどうしてこうした組み換えをしたのかよく分からないのではないかと思いました。

 A群:内面の感情や思考が重みを持ちやすいタイプ
  1.スキゾイド・パーソナリティ障害 (対象に呑み込まれる不安)
   (ⅰ)スキゾイド・パーソナリティ障害
   (ⅱ)スキゾタイパル・パーソナリティ障害
  2.サイクロイド・パーソナリティ障害 (強い一体化願望)
  3.妄想性パーソナリティ障害 (投影という防衛機制)
 B群:主観と客観とが混じりやすい対象関係を持つ
  4.反社会性パーソナリティ障害 (欠落した規範意識)
  5.境界性パーソナリティ障害 (見捨てられ不安)
  6.自己愛性パーソナリティ障害 (尊大な自己の背後)
 C群:外界の価値観を人格の中に組み込んで、存在のありようを外界と対峙させる
  7.回避性パーソナリティ障害 (恥の心理)
  8.強迫性パーソナリティ障害 (感情の切り離し)
  9.演技性パーソナリティ障害 (他の注目を惹こうとする心理)

 まあ、解説を進める上での前提であり、ことわり書であって、冒頭にくるのはやむ得ないし、本文を読んでいくうちに、著者の豊富な臨床経験に基づくカテゴライズであることは何となく掴めてくるのですが、こうなると専門家の数だけタイプ分けの仕方があるということにもなってくるような気がします。

 DSM‐Ⅳの分類にもとより難点があることは、多くの専門家が指摘していることであり、実際、他書ではまた違った「組み換え」や「復活」が見られますが、著者の分類で最も特徴的な点は、クレッチマーによって「循環気質(サイクロイド)」という名のもとに気分障害(躁うつ病)の病前性格として提唱され、現在はDSM診断体系で気分障害(双極性障害)の項に吸収されているサイクロイド・パーソナリティを、対象関係を得ると楽観的になり失うと悲観的になる人格として「サイクロイド・パーソナリティ障害」という呼び名で、人格障害の一類型として「復活」させている点かと思われます。

 著者によれば、サイクロイド・パーソナリティの人は身近に沢山いて、その性格類型を基盤にした気分障害、とりわけ双極性障害(躁うつ病)が注目を浴びるようになるにつれその意義は増し、DSM‐Ⅳにある「依存性パーソナリティ障害」も、その中核的ケースはサイクロイドではないかと考えるようになったとのこと(従って、著者の分類からは「依存性パーソナリティ障害」は除かれている)。

 著者は、パーソナリティ障害はパーソナリティの病気であるという考えのもとに「○○パーソナリティ」と「○○パーソナリティ障害」を区分していて、「○○パーソナリティ」であっても世の中に適合していくことができる、その道筋を本書で、簡潔ではあるものの具体的に示していて、その視点は参考になりました。

 サイクロイド・パーソナリティの捉え方も同じような視点からきていると思われますが、「入門書ほど書いた人の考え方が如実に表れる」ことの典型であるようにも思いました。

 「自己愛性パーソナリティ障害の特徴は、自己愛的な人の周辺で精神科患者が生産されることである」などの記述は腑に落ちるものであり(著者はこれを「自己愛性パーソナリティ障害代理症」と呼んでいる)、基本的には良書だと思いますが、体系というものを意識すると意外と難しいかも。中級以上向けの「入門書」?(最近、講談社現代新書のレベル設定がよく分からない)
 初学者は本書に止まらず、他の専門家が書いたものも読まれることお勧めします。

《読書MEMO》
●(参考)DSM-IV-TRによる分類
クラスターA
風変わりで自閉的で妄想を持ちやすく奇異で閉じこもりがちな性質を持つ。
1 妄想性パーソナリティ障害
2 スキゾイド・パーソナリティ障害
3 統合失調型パーソナリティ障害
クラスターB
感情の混乱が激しく演技的で情緒的なのが特徴的。ストレスに対して脆弱で、他人を巻き込む事が多い。
4 反社会性パーソナリティ障害
5 境界性パーソナリティ障害
6 演技性パーソナリティ障害
7 自己愛性パーソナリティ障害
クラスターC
不安や恐怖心が強い性質を持つ。周りの評価が気になりそれがストレスとなる性向がある。
8 回避性パーソナリティ障害
9 依存性パーソナリティ障害
10 強迫性パーソナリティ障害

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This page contains a single entry by wada published on 2012年12月28日 00:52.

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