【1823】 ○ 岡田 尊司 『境界性パーソナリティ障害 (2009/05 幻冬舎新書) ★★★★

「●精神医学」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1270】 岩波 明 『ビジネスマンの精神科
「●幻冬舎新書」の インデックッスへ 「●お 岡田 尊司」の インデックッスへ

分かりやすい。しかし、境界性パーソナリティ障害と一口に言っても多種多様。

境界性パーソナリティ障害 岡田尊司1.jpg 境界性パーソナリティ障害 岡田尊司 2.jpg          ヘルマン・ヘッセ.jpg    中森明菜.jpg  飯島愛.jpg
境界性パーソナリティ障害 (幻冬舎新書)』     ヘルマン・ヘッセ/中森明菜/飯島愛(1972-2008/享年36)

 『パーソナリティ障害―いかに接し、どう克服するか』('04年/PHP新書)という分かり易い入門書がある著者ですが、本書は、パーソナリティ障害の中でも近年多くの人が悩む身近な問題となってきていると言われる「境界性パーソナリティ障害」にフォーカスした入門書で、こちらもたいへん分かり易く書かれています。

 なぜ現代人に増えているのか、心の中で何が起きていているのか、どのように接すればいいのか、どうすれば克服できるのかなど、それぞれについて、必要に応じて事例をあげ、新書にしては丁寧に解説されているように思いました。

 本書によれば、境界性パーソナリティ障害においては、元々はしっかり者で思いやりのある人が、心にもなく人を傷つけたり、急に不安定になったり、自分を損なうような行動に走ったりと不可解な言動を繰り返し、時には場当たり的なセックスや万引き、薬物乱用や自傷行為、自殺にまで至ることもあるとのこと、「わがままな性格」と誤解されることも多いが、幼い頃からの体験の積み重ねに最後の一撃が加わって、心がバランスを失ってしまった状態であるとのことです。

 解説内容は概ねオーソドックスかと思いますが、第5章の「ベースにある性格によってタイプが異なる」という部分が、境界性パーソナリティ障害の多種多様性を示しており、この部分は研究者によって分類方法が若干異なるかもしれません。

 著者は、①強迫性の強いタイプ、②依存性が強いタイプ、③失調症の傾向が強いタイプ、④回避性の強いタイプ、⑤自己愛性が強いタイプ、⑥演技性が強いタイプ、⑦反社会性が強いタイプ、⑧妄想性が強いタイプ、⑨未分化型パーソナリティのタイプ、⑩発達障害がベースにあるタイプ―の10タイプを挙げています(多いなあ)。

 DSM‐Ⅳ(米国精神医学会の診断基準)で定義された10個のパーソナリティ障害の類型の中に、境界性パーソナリティ障害と並列関係で、強迫性パーソナリティ障害、依存性パーソナリティ障害、回避性パーソナリティ障害、自己愛性パーソナリティ障害、演技性パーソナリティ障害、反社会性パーソナリティ障害、妄想性パーソナリティ障害などがあることは周知の通りで、そういうのも含めて全部「境界性パーソナリティ障害」として説明してしまっている印象もありますが、DSM‐Ⅳが精神疾患の原因ではなく症状(エピソード)を基準としているため、このあたりはスペクトラム(連続体)としてみるか、相対的強弱でみるべきなのだろなあ。例えば、前の方で、「境界性パーソナリティ障害を自己愛の視点から理解すると、境界性パーソナリティ障害は、自己愛障害の一つのタイプ、つまり自己愛が委縮したタイプの自己愛障害として理解される」とあります。

 それぞれのタイプの説明は分かり易く、実際の患者例と併せて、外国の作家や俳優、日本の有名人の例が出てきて(それまでにもランボーや太宰治のエピソードが出てくるが)、それが理解の助けになっており、例えば、「強迫性の強いタイプ」でヘルマン・ヘッセ、「失調症の傾向が強いタイプ」でヴァージニア・ウルフ、「反社会性が強いタイプ」でジェームズ・ディーンなどといった具合。ヘッセについては、パーソナリティ障害の人をどう支えるかを解説した章で、彼がそれをどう乗り越えたかが書かれていて、結構しっかりフォローされているなあと。

 一方、「依存性が強いタイプ」で歌手の中森明菜の場合が、「演技性が強いタイプ」で'08年のクリスマス・イブに自宅マンションで孤独死しているところを発見された飯島愛の場合が取り上げられていて、実際に著者が診察したの?と異論も唱えたくなるものの、読んでみると結構これもまた"腑に落ちる"かどうかはともかく、ナルホドこういう見方もあるのかと―このあたりの作家性も含めた柔軟な解説が、著者の著書に固定読者がいる理由かも(最近、ちょっと量産し過ぎのような気もするが)。

 著者によれば、飯島愛は男性に裏切られ自殺寸前まで追い詰められた結果、もっとしたたかに生きようと、今度は逆に自分の魅力で男性を振り返らせ、手玉にとって、自分の尊厳を取り戻そうとしたのではないかと。したたかな生き方の内側には、拭いきれない寂しさや空虚感があって、明るさと影の対比が多くの人の共感を呼ぶのではないかとしています。

山口美江0.jpg 確かに、飯島愛のブログは亡くなって4年も経つのにいまだにコメントが付され続けていますが、う~ん、何となく共感する人が男性にも女性にも結構いるのかも。
 孤独死と言えば、元タレントの山口美江が今年('12年)3月に自宅で孤独死しているのが発見されたニュースを思い出しますが、何年か前に臨床心理士の矢幡洋氏が、彼女のことを「サディスティック・パーソナリティ障害」が疑われるとしていたのが印象に残っています。

 「サディスティック・パーソナリティ障害」は元ハーバード大学精神医学教授でDSM-Ⅲにおける人格障害部門の原案作成者セオドア・ミロンがパーソナリティ障害の1タイプとして入れていたもので、自己愛性パーソナリティ障害の攻撃が外に向かうタイプと変わらないとしてDSM‐Ⅳで削除されたもの。
 ミロンは、「反社会性パーソナリティ障害」に近いものとしていますが、実際、本によっては、「自己愛性」とグループ化しているものもあり、、矢幡洋氏の場合はそれをパーソナリティ障害の主要類型として「復活」させているわけです。

 DSMそのものも様々な変遷を経ており、その中の1タイプである境界性パーソナリティ障害だけで、著者の言うように10タイプあるとなると結構たいへんだなあと(尤も、パーソナリティ障害の中で境界性パーソナリティ障害がいちばん研究が進んでいるとのことだが)。

Categories

Pages

Powered by Movable Type 6.1.1