【1819】 ○ 内藤 朝雄 『いじめ加害者を厳罰にせよ (2012/10 ベスト新書) ★★★☆

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「死なないで」の有名人メッセージはむしろ有害であると。学級制度廃止は「短期的」解決策?

いじめ加害者を厳罰にせよ (ベスト新書).jpgいじめ加害者を厳罰にせよ (ベスト新書)』  いじめの構造.gif 『いじめの構造―なぜ人が怪物になるのか (講談社現代新書)』 ['09年]

大津市中2いじめ自殺事件3.jpg 前著『いじめの構造―なぜ人が怪物になるのか』('09年/講談社現代新書)が、いじめの社会学的分析として評価が高かった著者が、'11年10月に起きた大津市のいじめ自殺事件が今年('12年)7月になって大きくマスコミで取り上げられるようになったのを受けて著したものです。

 大津の事件は特別のものではないとし、いじめ事件の発生メカニズムを、「市民社会モード」から隔離された「学校モード」の中で、仲間外れにされまいと大勢の「ノリ」や「勢い」に同調するところから起きると解明している点は、前著の流れを引くもので、前著より噛み砕いて書かれています。

 更に、いじめ隠蔽の構造とマスコミ報道について言及していますが、いじめの隠蔽構造は、東日本大震災に伴う福島第一原発事故で責任を回避しようとした原子力ムラと相似形であると述べているのは分かり易く、人の命よりも「教育ムラ」の安泰の方が優先されてしまっているということかと。ナルホド(「大津いじめ自殺事件」のその後の経緯は、まさにそのことを如実に物語っている)。

 本書で特に目を引いたのは、「大津いじめ自殺事件」に際してマスコミが、多くの有名人のコメントを報じ、「報道祭り」の様を呈したことを批判的に捉えていることで、そうした有名人を起用してコメントさせることは殆どの場合が有害であり、諸悪の根源が学校制度にあることから目を逸らし、いじめ問題を「心」の問題にすり替えることになっているとしています(あれ、当の子ども達は読んだのかなあ。大人のカタルシスになっているだけの気もするけれど)。

 著者は、とりわけ「死なないで」といったメッセージは、「警察に行く」など正義のため何をなすべきかという選択肢を超えて、いじめ被害者を逆に一気に「生か死か」という問題に追い詰めることになっており、そのようないじめ被害者に本来与えるべきなのは、「加害者は敵だ」というメッセージであるとしています。

 また、マスコミ報道も、「心の問題」にフォーカスするのではなく、「加害者はいかに処罰されるべきか」という社会正義をこそ報道すべきだと。但し、加害者に対し「あいつら、ムカつく」などと「特定」「晒し」を行うことは、これもまた、いじめを生み出す「群れ」と同じ「ノリ」で盛り上がっているに過ぎず、そうした「ネット愚民」になってはならないとも。

 いじめの解決策については、中長期的な解決策としては1つの学校に生徒を所属させる制度を廃止することを、短期的には学級制度の廃止と、「暴力系のいじめ」には学校への法の導入(法に基づいた加害者の処罰)をすべきだとしています。

 学級制度の廃止は前著でも提言されていたように思いますが、前著がいじめの社会学的分析が主だったのに対し、こちらは主張が前面にきていて、より明確で分かり易いように思いました。

 本書における著者の考え方には概ね賛同しますが、シカトする、悪口を言う、嘲笑するなどの「コミュニケーション操作系のいじめ」については司法の介入は難しいとなると、果たして学級制度の廃止が「短期的」解決策として実現可能なものなのかどうか、実際にそうした試みがなされているのか、却って孤立する子も出てくる可能性があり、そうした子どもを見つけてサポートすることも必要になるのではないか等々、やや考えさせられる点もありました。

 そうした試みや運動や行われれば、ある時期一気に拡がるかもしれないけれど、今のところあまり聞かない...。

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This page contains a single entry by wada published on 2012年12月18日 04:00.

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