「●子ども社会・いじめ問題」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1819】 内藤 朝雄 『いじめ加害者を厳罰にせよ』
入門書としてまともだが、まとも過ぎてテキスト的で、インパクトが弱い。
『いじめで子どもが壊れる前に (角川oneテーマ21)』 ['12年]
'12年7月、前年10月に滋賀県大津市で発生した中学生自殺事件が連日マスメディアで取り上げられるようになり(しかしながらこの事件、学校からも教育員会からも出てくるのは責任逃れ的な発言ばかりだなあ)、そのことを受けて刊行された一連の本のうちの1冊です。書いているのは「教育方法学」の専門家(この著者には、『ケータイ世界の子どもたち』('08年/講談社現代新書)などの前著がある)。
現代のいじめの状況を俯瞰し、いじめとネット社会の関連をみるとともに(これが著者の得意分野?)、過去の8つのいじめ事件から、なぜそうしたことが繰り返されるのか、活かすべき教訓は何かを探っています。
取り上げられているのは、今回の大津の事件と同じように「葬式ごっこ」があり、結果的に教師も加担した「中野富士見中事件」(鹿川裕史君自殺事件)('86年)、いじめか犯罪かが問題となった「山形県マット死事件」('93年)、事件後に全国に連鎖的にいじめ自殺を引き起こした「愛知県西尾市中学生いじめ自殺事件」(大河内清輝君自殺事件)('94年)、同級生からの恐喝・暴行がエスカレートした「名古屋市五千万円恐喝事件」、いじめ被害者がホームページで校長に訴えた事件('99年)、20年前の中野富士見中の事件同様、教師がいじめに加担する形になった「福岡県中学生自殺事件」('06年)、ネット上のいじめが自殺に繋がった「神戸市高校生自殺事件」('07年)、学級崩壊といじめ自殺の因果関係が窺える「桐生市小学生自殺事件」('10年)―これらにしても、とりわけマスコミで話題になったものに過ぎず、氷山の一角なんだろなあ。なんとまあ、このような悲惨な事件が繰り返されるものだと。
本書では更に、学校はどう変わっていくべきか、いじめを激減させる対策とは何かを整理し、発達障害といじめの関係や、親がわが子にいじめの兆候をみつけたらどうすればよいかについても書かれています。
但し、どちらかというと、学校側にとっての「危機管理」としてのいじめ対策に重点が置かれているという印象も。著者の専門上、そうした視点にならざるを得ないのでしょうが。
学校とは理想を語りたがる組織で、「みんな仲良く」などのスローガンが掲げられ、現実に他の子供たちと仲良くできない生徒がいても、こうした「言霊主義」のもと、いじめなどは話題にしにくくなりやすい、という指摘には一理あるように思いました。
他にも書かれていることには参考になる部分もありましたが、包括的な内容を1冊の新書に盛り込んだため、個々のテーマの突っ込みが浅く、テキスト的になった気がし、子どものいじめに悩む親などが読んでも、それほど具体的な対処策・解決策が得られないのではないかなあと。
前著『ケータイ世界の子どもたち』も、読んでいて「教育テレビ番組」を見ているような感じ、とでも言うか、あまりインパクトをもって伝わってこなかったのですが、本書も入門書としてはまともであるものの、まとも過ぎることからくる、そうした物足りなさがあります。