【1805】 ○ 原 康夫/右近 修治 『日常の疑問を物理で解き明かす―東京スカイツリーの展望台からどこまで見える? 携帯電話をアルミホイルで包むとどうなる?』 (2011/04 サイエンス・アイ新書) ★★★☆

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物理というものを身近に感じさせてくれる。テーマを日常に結びつけるのにやや苦労している?。

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             東野圭吾.jpg 東野 圭吾 氏(大阪府立大学工学部電気工学科卒)
日常の疑問を物理で解き明かす 東京スカイツリーの展望台からどこまで見える?携帯電話をアルミホイルで包むとどうなる? (サイエンス・アイ新書)』['11年]

 「洗い立ての髪にドライヤーで風を当てるとすぐに乾くのはなぜ?」といった各種日常的な疑問を物理学の観点から解説していて、気軽に手に取れて解説もまあまあ分かり良く(この新書の特長であるフルカラーの図説が効いている)、何となく小難しいイメージのある「物理(学)」というものを身近に感じさせてくれます。

 各章に「日常の物理―熱に関する疑問」といったタイトル付けがされているように、熱、光、音、力と運動、電気と磁気の5つのジャンル分けがされていて、体系的・網羅的であると言えばそうとも言えるし、その分、先にテーマがあって、それを日常の現象に置き換えているようなところも(まあ、日常の疑問と言っても、あくまでも対象となるのは物理現象であるわけだし)。

東京スカイツリー.jpg サブタイトルの「東京スカイツリーの展望台からどこまで見える?」というのは、ナルホド、地球の中心から地表までの距離(地球の半径)にスカイツリーの展望台の高さ(450m)を足した直線と、地球の中心と展望台から見える最遠方の地点(地表)を結んだ直線(地球の半径)と、スカイツリーの展望台とそこから見える最遠方の地点を結んだ直線(求めるx)の、3辺から成る直角三角形を描いて「三平方の定理」で求めるわけだ。
 計算結果は76kmになるとのことで、これが富士山の山頂(標高3,776m)からだと220kmになるそうです。高さの違い程には見える距離の差が無いような印象を受けますが、三平方の定理から逆算すれば、地表からの高さの「平方根」に比例することになるわけで、「平方根」に比例するというのが高さの違い程には見える距離の差が無い結果につながるわけです。これを読んで、1つ基準値を覚えておけば地球の半径が分からなくとも計算できるなあと思いました(あるウェブサイトでは「d(km)=3.57√ ̄h(m)」となっていた。高さ1mのところからは3.57km先まで見えるということである本書もこのように最終公式まで書いてもらえるとより良かったかも)。
 でも、これ、「日常の疑問」であるには違いないにしても、「物理の疑問」と言うより、純粋に「数学」じゃないかなあ。「虹」のテーマと複合させて、表紙カバーの図案にもなってるけれど。

携帯電話をアルミホイルで包むとどうなる.jpg もう一つのサブタイトルである「携帯電話をアルミホイルで包むとどうなる?」というのは、週刊誌(「週刊文春」)に出ていた、着信があると自動的に電源が入ってしまう「キッズケータイ」を巡っての特急電車の優先席での子どもとお爺さんとの間のトラブル話に材を得たもので、これを見ていた物理学者らしい男が、子どもが食べたおにぎりを包んでいたアルミホイルを使って―。
 これ書いていたの、作家の東野圭吾氏だったそうで、やっぱり電気工学科卒だけのことはある。創作っぽい感じもするけれど、実話なのかな。それとも小説の中の話なのかな(映画を観た人の話によると『真夏の方程式』の中でのガリレオ・湯川の行動らしいが)。

 冒頭の「洗い立ての髪にドライヤーで風を当てるとすぐに乾くのはなぜ?」にはナルホドと思わされ、「バスがかけているメガネ?」(バスの後部ウィンドウのガラスが外端方向に厚くなっていてワイドビュー(視野拡大)レンズの役割を果たしているという話)など、著者ら自身が見つけた「日常の疑問」の話もありますが、全体としては、結構テーマを日常に結び付けるのに苦労している印象も。
 「日常」と言うより、いきなり「実験室」的な設定になっているケースも少なからずあり、ドライヤーの話もバスの話も各章の冒頭にきていて、それだけ「日常」に近いという意味で"自信作"ということなのかも。

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