【1799】 ○ 小堀 杏奴 (編) 『森鷗外 妻への手紙 (1938/11 岩波新書) ★★★☆

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軍医、作家ではなく、一家庭人としての鷗外の人間味が滲み出ている書簡集。

『森鷗外 妻への手紙』.JPG 森鷗外 妻への手紙.jpg    森鷗外.jpg 森鷗外(1862-1922/享年60)
森鴎外妻への手紙 (昭13年) (岩波新書〈第17〉)』『妻への手紙 (ちくま文庫)
志げ夫人
志げ夫人.jpg 今年(2012年)は森鷗外(1862-1922/享年60)没後150周年。本書は、鷗外の二度目の妻・しげ(志げ)への書簡集で(最初の妻・登志子とは、別居後に離婚)、編纂者の小堀杏奴(1909-1998)は鷗外の次女です。しかし、長男(登志子との間の子)の名前が於菟(おと)で、長女が茉莉(まり)(作家の森茉莉)、次女が杏奴(あんぬ)で二男が不律(ふりつ)、三男が類(るい)というのはすごいネーミングだなあ。オットー、マリ、アンヌ、フリッツ、ルイと片仮名で書いたほうがよさそうなぐらいです。

 1904(明治37)年から鷗外の没年である1922(大正11)年までの手紙を収めていて、その多くは鷗外が軍医部長として従軍した日露戦争(1904-05)中のもので、とりわけ1905(明治38)年に集中していますが、この年は、(前年末からの)旅順攻略、奉天会戦、日本海海戦、講和へとめまぐるしい戦局の変化があった年。

 しかし、鷗外の手紙の中で戦局の報告は極めて簡潔になされており、後は「新聞を読むように」とかいった具合で、むしろ、妻の健康と日常の暮らしぶり、生まれたばかりの娘・茉莉(1903-1987)の成長の様子を窺う文章で埋め尽くされているといった感じ(茉莉は何が出来るようになったか、病気はしてないか、といった具合に)。
   
森茉莉.jpg "しげ"とは1902(明治35年)、鷗外が41歳、彼女が23歳で結婚しており、結婚して3年、娘・茉莉が生まれて2年ということで(しかも妻との年の差18歳)、手紙文は読みやすい文体で書かれており、中には(娘に対して)でれでれ状態と言ってもいいくらいのトーンのものもあるのは無理もないか(鷗外の堅いイメージとは裏腹に、ごくフツーの親ばかといった感じ)。

 ドイツ留学時代に彼の地に残してきた恋人のことを生涯胸に秘めつつ、家族に対してはこうした手紙を書いていたのだなあというのはありますが、妻や子への鷗外の想いは偽らざるものであったのでしょう。

 鷗外の妻への過剰とも思える気遣いの背景には、小堀杏奴があとがきに該当する「父の手紙」のところでも記しているように、妻と鷗外の母との不仲(所謂"嫁姑の確執"があったことも関係しているのかも。

森茉莉(12歳) 1915(大正4)年
    
森鷗外 妻への手紙 奥.JPG 手紙の多くが、「○月○日のお前さんの手紙を見た」「その後はまだお前さんお手紙は来ない」といった文章で始まっているように、妻の方からも、近況を伝える返信を書き送っていたと思われ、その妻の手紙は公表されていないわけですが、鷗外が自らの手紙でその内容をなぞったりしているので、大方の内容の見当はつきます。

 鷗外は必ずしも戦地で常に多忙を極めていたわけではないようで、妻から手紙は鷗外自身の無聊を慰めてもいたのでしょう。写真の感想なども多く、そうした鷗外の気持ちを察するかのように、妻しげは、家族の写真などもしばしば送っていたことが窺えます。

 鷗外の手紙の現物は杏奴の死後にも多く見つかっており、その殆どは既に杏奴を通して公表され全集にも収められていたとのことで、杏奴による時系列の並べ順の誤り(ミス)などが一部に見られるものの、少なくとも日露戦争時の手紙はそのまま全部収められているとみていいのではないかと思われます。

 軍医、作家といった鎧を脱ぎ棄て、一家庭人としての鷗外の人間味が滲み出ている書簡集でした。

【1996年文庫化[ちくま文庫(森鷗外『妻への手紙』)]】

  



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和田泰明ブログ

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This page contains a single entry by wada published on 2012年9月 2日 00:55.

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