【1796】 △ 岡田 尊司 『アスペルガー症候群 (2009/09 幻冬舎新書) ★★★

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入門書として分かり易く書かれているが、ちょっと「天才」たちの名前(&エピソード)を挙げ過ぎなのでは?

岡田 尊司 『アスペルガー症候群』  .JPGアスペルガー症候群 幻冬舎新書.jpg 『アスペルガー症候群 (幻冬舎新書 お 6-2)』['09年]

 アスペルガー症候群の入門書として基本的な部分を網羅していて、記述内容も(一部、大脳生理学上の仮説にも踏み込んでいるが)概ねオーソドックス、既に何冊か関連の本を読んで一定の知識がある人には物足りないかもしれませんが、純粋に入門書として見るならば分かり易く書かれていると思いました。

 以前に著者の『パーソナリティ障害―いかに接し、どう克服するか』('04年/PHP新書)を読んで、例えば「演技性パーソナリティ障害」では、チャップリン、ココ・シャネル、マーロン・ブランドの例を挙げるなど各種人格障害に該当すると思われる有名人を引き合いにして解説していたのが分かりよかったのです。

 ただ、今回気になったのは、読者がよりイメージしやすいようにとの思いからであると思われるものの、ビル・ゲイツ、ダーウィン、キルケゴール、ジョージ・ルーカス、本居宣長、チャーチル、アンデルセン、ウィトゲンシュタイン、アインシュタイン、エジソン、西田幾多郎、ヒッチコック...etc.と、ちょっと「天才」たちの名前(&エピソード)を挙げ過ぎなのではないかと。

 これも以前に読んだ、正高信男氏の『天才はなぜ生まれるか』('04年/ちくま新書)などは、ハナから、「天才」と呼ばれた人には広義の意味での学習障害(LD)があり、それが彼らの業績と密接な関係があったという主張であって、その論旨のもと、エジソン(注意欠陥障害)、アインシュタイン(LD)、レオナルド・ダ・ヴィンチ(LD)、アンデルセン(LD)、グラハム・ベル(アスペルガー症候群)、ウォルト・ディズニー(多動症)といった偉人の事例が出てくるわけですが、本書は一応「入門書」という体裁を取りながらも、アスペルガー症候群に関して同種の論を唱えているようにも思われました。

 勿論、アスペルガー症候群の子どもの強み、弱み共々に掲げ、強みを伸ばしてあげる一方で、社会性の獲得訓練などを通して弱みを補うことで、大人になって自立できるように養育していく努力の大切さを説いてはいるのですが、これだけ「天才」の名が挙がると、(話としては面白いのだが)読んだ人の中にはそっちの方に引っ張られて、子どもに過剰な期待し、現実と期待の差にもどかしさを感じるようになる―といったことにならないかなあ(まあ、養育経験者はまずそんなことにはならないだろうけれど、一般の人にはやや偏ったイメージを与えるかも)。

 自閉症やアスペルガー症候群などの広汎性発達障害の専門家や臨床医が書いた入門書や、或いはこの分野の権威とされる人が監修したガイドブックなどにもエジソン、アインシュタインなどはよく登場するわけですが、本書の場合、冒頭から「本書を読めば、テレビでよく見かける、頭がもじゃもじゃのあの先生も、今をときめく巨匠のあの先生も、ノーベル賞をとったあの先生も、このタイプの人だということがおわかり頂けるだろう」といったトーンです。

益川敏英.jpg 結局、この3人の内の最後の人などは、本文中に物理学者・益川敏英氏として登場し、アスペルガー症候群特有のエピソードが紹介されたりもしているのですが、確かに、あの人のノーベル賞受賞会見などを見て、ぴんとくる人はぴんときたのではないかと思います(その意味では、分かりよいと言えば分かりよいのだが...)。
 ただ、一方で、著者自身が直接益川氏を診たわけではなく、従って、メディアを通しての著者個人の"見立て"に過ぎないとも言えます(前著『境界性パーソナリティ障害』('09年/幻冬舎新書)では、「依存性パーソナリティ」の例として某有名歌手を取り上げるなどしていた)。

 解説部分がオーソッドクスなテキストである分、こうした事例の紹介部分は本書に"シズル感"をもたらしていますが、そこが著者の一番書きたかったことなのではないかな(この著者には、ある意味、"作家性"を感じる。同じようなことを感じる精神科医は前述の正高信男氏をはじめ、他にも多くいるが)。

 著者自身にもその自覚があるからこそ「アスペルガー症候群入門」とか「アスペルガー症候群とは何か」といったタイトルを使わず、本書を単に「アスペルガー症候群」というタイトルにしているのではないでしょうか。

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This page contains a single entry by wada published on 2012年8月31日 00:46.

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