【1790】 ○ 矢野 創 『星のかけらを採りにいくー宇宙塵と小惑星探査』 (2012/06 岩波ジュニア新書) ★★★★

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「宇宙塵」を通して宇宙や星、地球などの誕生の謎に迫り、更には生命誕生の謎にも。

星のかけらを採りにいく.jpg    矢野 創.bmp 矢野 創・慶應義塾大学院特別招聘准教授
星のかけらを採りにいく――宇宙塵と小惑星探査 (岩波ジュニア新書)』['12年]

 ある意味、2010(平成22)年6月に地球に大気圏再突入した「はやぶさ」の"偉業"達成効果の流れで刊行された本であり、著者自身「はやぶさ」プロジェクトにおいてカプセル回収・科学輸送斑の責任者であったわけですが、「プロジェクトX」風の本が多い中、本書は、宇宙のチリである「宇宙塵」とういうものを通して、そこに秘められた宇宙や星、更に地球などの誕生の謎に迫ることができることを解説した科学入門書に近い内容。

 その上で、「星のかけら」を採りにいくことの意義を改めて理解させてくれる本でもあり、ジュニア新書らしい切り口ですが、内容のレベル的には大人向けと言っていいかも(まあ、知識欲旺盛な中高校生もいれば、そうでない大人もいるが)。

 「宇宙塵」というものは日々地球に降り注いでいるわけで、でも大気圏通過の際に変質したり、地球に到達してからもやはり地球の大気などの影響で変質したりするし、そもそもどこから来たものかが殆どの場合不明であるから、結局、オリジナルを星に獲りにいくのがいいわけなんだなあと。

 今まで探査機が訪れた小惑星は幾つもあるようですが、2011年にNASAが到達したヴェスタは直径530km、それに対し「はやぶさ」が到達したイトカワは最大直径0.5kmと、1000倍以上の大きさの差があるとのこと。日本は随分小さな小惑星をターゲットに選んだものですが、これは打ち上げスケジュール上の地球とのその時点での小惑星の位置関係の問題などもあったのでしょう。

 本書で興味深かったのは、「生命前駆物質」である有機物や水が、宇宙塵に乗って地球に降ってきて、それが地球における生命誕生の始まりとなった可能性も考えられるということで、地球に到達する宇宙塵には火星などからのものも相当あるとのことで、そうなると、地球生命の起源はもしかして火星にあったりして...。

 火星の地質探査などが今話題になっていますが、一番の注目はそこに有機物の痕跡があるかどうかということ(かつて水があったことは、今世紀に入ってほぼ明らかになっている)―それが何億年も前の地球生命のルーツかも。

 火星の筋状の表面から運河を空想し、知的生命がいるかも知れないとのイマジネーションのもとSF『宇宙戦争』を書いたのがH・G・ウェルズですが、まあ90年代後半にアメリカが火星に送った「マーズ・パスファインダー」の探査車(マーズ・ローバー)は運河も火星人も映し出さなかった―でも、「有機物の痕跡」となると、可能性はゼロではないかもしれません(X線分光計でデータを地球に送るよりは、試料を直接持ち帰った方がいいのだろうけれど、アメリカの場合、それが出来るのであれば、いっそのこと火星旅行(有人飛行)ということになるんだろうなあ)。

 本書を読むと、宇宙探査には①フライバイ、②ランデブー/オービタ、③着陸、④ローバー、⑤サンプルリターンの5種類があり、①から⑤まで全て無人探査機でできて、最も難しくハイリスク・ハイリターンなのが⑤の試料を地球に持ち帰るサンプルリターン。日本の「はやぶさ」プロジェクトは、だからこそサンプルリターンにこだわったということがよく分かりました。

 各章末に、著者自身の生育史、研究者としての歩みがエッセイ風に織り込まれていて、著者の人となりなども窺え、親近感が持てました。

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