【1789】 ◎ 川口 淳一郎 『カラー版 小惑星探査機はやぶさー「玉手箱」は開かれた』 (2010/12 中公新書) ★★★★☆

「●宇宙学」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1800】 村山 斉 『宇宙は本当にひとつなのか
「●中公新書」の インデックッスへ 「●「朝日賞」受賞者作」の インデックッスへ(探査機「はやぶさ」プロジェクトチーム(チーム代表:川口淳一郎))

突っ込んだ科学的解説だがカラー図説で分かりやすく、当事者ドキメントとしてのシズル感も味わえる。

カラー版 小惑星探査機はやぶさ.jpg   小惑星探査機はやぶさ.jpg はやぶさ/小惑星イトカワ     川口淳一郎『「はやぶさ」式思考法』.jpg
カラー版 小惑星探査機はやぶさ ―「玉手箱」は開かれた (中公新書)』['10年] 『「はやぶさ」式思考法 日本を復活させる24の提言』['11年]

 2003(平成15)年5月に打ち上げられ、2005(平成17)年夏に小惑星イトカワに到達し、2010(平成22)年6月に地球に大気圏再突入した小惑星探査機「はやぶさ」の企画、研究開発から帰還までをドキュメント風に追ったもので、著者は「はやぶさ」計画のプロジェクトマネージャーを務めていた人。

 「はやぶさ」の偉業のスゴさが脚光を浴び、世間に浸透するにつれ、その技術解説、宣伝・広報の「顔」的な存在となり、その後も『「はやぶさ」式思考法-日本を復活させる24の提言』('11年2月/飛鳥新社)など著者の名の下に多くの本が刊行されていますが(今年('12年)とうとうJAXAの事務局に異動になった?)、そうした中では最も早く刊行された部類の本であるとともに、「中公新書」らしく、新書にしてはある程度の専門レベルにまで踏み込んだ内容かと思われます(一般向け新書の中で科学・技術面の解説が最も詳しくなされているのは、著者監修の『小惑星探査機「はやぶさ」の超技術―プロジェクト立ち上げから帰還までの全記録』('11年3月/講談社ブルーバックス))。

 本書は、手抜きしていない分やや難しかった面もありましたが、カラー版ということで、図説や写真も多く、素人でもシズル感を感じつつ読み進むことができ、また、著者の「はやぶさ」への思い入れが随所に滲み出ているというか、目一杯表されている点でも、自ずと感情移入しながら読めました(本書の後に多く出された「はやぶさ」関連本は、上記2冊を含め著者による「監修本」が殆どだが、本書は純粋に著者の「単著」と言える)。

 著者によれば、人類の作ったものが地球の引力圏外まで行って着陸し、再び戻ってきたのは、「はやぶさ」が有史以来初とのこと。アポロ司令船は月面着陸したのではなく、40万キロメートル先まで行って戻ってきただけで、一方、「はやぶさ」カプセルは、イトカワの表面に着陸し、片道30億キロ、往復60億キロの旅をして戻ってきたわけだなあ。読んでみて、とにかくトラブル続きで不測事態の連続だったことを改めて知りました。

 以前、アイザック・アシモフの本で、「冥王星に直接行こうとすれば47年かかるが、木星経由だと25年ですむ」(宇宙船が木星の引力で加速される)というのを読みましたが、これが「スウィングバイ」の原理。本書の前の方にその解説がありますが、著者は、科学衛星ミッションにおけるスウィングバイのスペシャリストであるともに、「はやぶさ」ミッションにおいて電気(プラズマ)推進の特性を生かした航法を考案したのも著者。こうした複数の専門性を有する人がやはりリーダーになるのでしょう。

 「はやぶさ」は、当然のことながら、打ち上げに成功してから命名されたわけですが、「イトカワ」は、さらにその後に命名されたとは知りませんでした。

 ラッコに似た形のイトカワに目鼻を書き加えて「イトカワラッコ」と呼んだり、帰還する「はやぶさ」がカプセルを切り離した後、本体は大気圏再突入の際に燃え尽きてしまうことについて「はやぶさ、そうまでして君は」という文章を寄せるなど、思い入れたっぷりですが、これだけの長期に渡って一つのプロジェクトに携わり、しかもその過程が平坦なもので無いとすれば、こうした著者の思い入れも分かろうというもの。

 サンプルリターンにこだわり抜いて「玉手箱」を開けたら見た目はカラだったため、キュレーション(試料取り出し・分配・保管)担当が真っ青になったというのは分かるなあ(微粒子レベルでの試料採取に成功していたことが分かったのは帰還の翌月)。

 因みに、この「はやぶさ」帰還の物語は、「はやぶさ/HAYABUSA」('11年・20世紀フォックス/竹内結子主演)、「はやぶさ 遥かなる帰還」('12年・東映/渡辺謙主演)、「おかえり、はやぶさ」('12年・松竹/藤原竜也)と立て続けに3本の映画になりましたが、観客動員数は今一つ伸びなかったみたい...。やはり、似たようなのが3作もあるとなあ。

About this Entry

This page contains a single entry by wada published on 2012年8月10日 00:03.

【1788】 ○ むの たけじ 『希望は絶望のど真ん中に』 (2011/08 岩波新書) ★★★☆ was the previous entry in this blog.

【1790】 ○ 矢野 創 『星のかけらを採りにいくー宇宙塵と小惑星探査』 (2012/06 岩波ジュニア新書) ★★★★ is the next entry in this blog.

Find recent content on the main index or look in the archives to find all content.

Categories

Pages

Powered by Movable Type 6.1.1