【1775】 ○ ジル・ボルト・テイラー (竹内 薫:訳) 『奇跡の脳 (2009/02 新潮社) ★★★★

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脳卒中からの脳科学者の回復の記録。まさに奇跡的。その回復要因をもっと考察して欲しかった。

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奇跡の脳』['09年]『奇跡の脳: 脳科学者の脳が壊れたとき (新潮文庫)』['12年] Jill Bolte Taylor Ph.D. in TED

 著者のジル・ボルト・テイラー(Jill Bolte Taylor Ph.D.)はハーバードの第一線で活躍する脳科学者でしたが、1996年12月10日の朝、目覚めとともに脳卒中に襲われ、歩くことも話すことも、読むことも書くこともできず、記憶や人生の思い出が失われていくという事態に陥ります。

 彼女を襲った病気は、脳動静脈奇形(AVM)による脳出血(脳卒中は血管が詰まる「脳梗塞」と血管が破れて出血する「脳出血」に大別される)でしたが、本書は、そうした"心の沈黙"という形のない奈落の世界に一旦は突き落とされたものの、そこから完全に立ち直ることが出来た彼女が、後から長い時間をかけて自らの陥った状況を思い出し、科学者として分析し、回復の過程をまとめたものです(原題は"My Stroke of Insight A Brain Scientist's Personal Journey")。

 脳卒中に襲われた朝の自身の心理状態などが詳しく書かれていますが、その瞬間、これで脳の機能が失われていく様を内側から研究できると思ったというのがスゴイね。「時間が流れている」という感覚も、「私の身体の境界」という感覚も、脳の中で作り出された概念に過ぎないということを、それを失うことによって悟ってしまうというのも。

 脳卒中などによる機能障害は、最初はリハビリの効果が見られても6ヵ月ぐらいで症状が固着し、そこからはあまり目覚ましい回復は見られないというのが一般的であるのに対し、彼女の場合は年ごとに身体機能と知的活動を行う力を回復し、8年ぐらいかけて身体機能を元に戻すとともに、研究の場に完全復帰しています。

 そこには並々ではない努力はあったと思われるものの、脳の大手術を受けたこと、また障害の重さなどから言うと、やはり"奇跡的回復"と言っていいのでは(「身体の境界」の感覚が戻ったのは7年目だという)。

 彼女の場合、主にダメージを受けたのは左脳であったため、左脳が司っていた言語機能、理性や時間感覚が失われる一方で、右脳の芸術家的機能が活発化していったわけで、本書の後半は、「左脳マインド」に対する「右脳マインド」の話になっていて、プラグマティックであると同時に、ややスピリチュアルな雰囲気も。

 本書は全米で50万部売れ、彼女の「TED」(Technology Entertainment Design)でのプレゼンの様子はユーチューブで何百万回も視聴されたそうですが、それを見ると、この人、相当のプレゼンテーターというか、教祖的な雰囲気もあって、確かにアメリカ人には受けそうだなあ(但し、日本でも、NHK-BSハイビジョンで特番が組まれた。訳者・竹内薫氏の仕掛けもあったとは思うが)。

 彼女が陥った脳機能障害について、図説などを用いて丁寧に解説してあるのが親切で、一方、まさに"奇跡"であるところの回復過程についてはさらっと済ませてしまっていて、「努力」だけでこのような回復を遂げられるものではなく、何らかの特別な要因があったと思われるのですがそれにはさほど触れず、その後は「右脳マインド」の話になってしまっているのが、個人的にはやや不満。そうした"奇跡"が起きたことの「神秘」が、そのまま後半のスピリチュアリズムに受け継がれているといった感じでしょうか。

それでも、そうした「右脳マインド」の話にしても、体験者、しかも脳科学者が語っているだけに、凡百の啓蒙書などに書かれていることなどよりは、ずっと説得力はあったように思います。

【2012年文庫化[新潮文庫(『奇跡の脳: 脳科学者の脳が壊れたとき』)]】

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和田泰明

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