【1769】 ○ 川畑 信也 『知っておきたい認知症の基本 (2007/04 集英社新書) ★★★★

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オーソッドックスな認知症の入門書であり、分かり易い。

知っておきたい認知症の基本.jpg 『知っておきたい認知症の基本 (集英社新書 386I)』 親の「ぼけ」に気づいたら 文春新書.jpg 『親の「ぼけ」に気づいたら (文春新書)

 認知症臨床医の斎藤正彦氏の『親の「ぼけ」に気づいたら』(2005年/文春新書)を読んで、認知症患者本人とその介護にあたる家族の生き方の問題まで突っ込んで書かれていたので、入門書でありながらもちょっと感動してしまったのですが、こちらは、1996年以来「物忘れ外来」で多くの患者を診察してきた川畑信也医師が書いたオーソッドックスな認知症の入門書であり、個人的にはこちらの方を先に読みました。

 厚労省が「痴呆性疾患」改め「認知症」という"新語"の使用を決めたのが2004年頃で、本書の刊行が2007年ですから、この頃には「認知症」という言葉がある程度一般に定着してきていたのではないでしょうか。

 但し、著者の言うように、「認知症」と「アルツハイマー病」の違いがまだよく理解されていなかったりもして、本書では、その辺りの解説から入って(要するに、「アルツハイマー病」という病気(原因)によって「認知症」という状態(結果)が引き起こされるという関係)、認知症とはどういった状態を指し、その中核症状や周辺症状はどういったものかを説明しています。

 更に、認知症を引き起こす代表的な病気として、アルツハイマー病と脳血管性認知症についてそれぞれ1章を割いて解説するとともに、治療可能な認知症を見逃さないようにするには、どういった点に注意すればよいかが書かれています。

 また、認知症は、上手な介護と適切な対応によってその進行を遅らせることができるとし、薬物療法や、事例からみた介護の在り方についても書かれています。

当時、認知症について書かれた本は数多く出されたように思いますが、その中でも分かり易い方でした。

 とりわけ、アルツハイマー病の早期兆候として、①物忘れ(記憶障害)、②日時の概念の混乱、③怒りっぽくなる(易怒性)、④自発性の低下、意欲の減退、の4つを挙げているのが分かりよかったです。

一方、脳血管性認知症については、脳血管障害に由来する神経症状に認知症がみられると脳血管性認知症と診断されるが、これは誤りであり、脳血管障害を発症する前に、認知症がすでに存在していた可能性があるとし、更に、アルツハイマー病でみられる認知症状が脳血管障害によって悪化するという傾向があるとしています。

 かつてが「痴呆性疾患」と言えば脳血管障害がメインの原因であり、それが90年代にアルツハイマー病と脳血管障害が拮抗するようになり、著者の「物忘れ外来」での過去10年間の受診者の診断内訳は、アルツハイマー病が52.9%で、脳血管性認知症は5.4%となっています。

 著者は、脳血管性認知症はかなり曖昧であり、実際にそのように診断されているよりも遥かに数は少ないのではないかとしていますが、近年の世間一般の統計は、著者の「物忘れ外来」での診断分布にどんどん近くなっていて、アルツハイマー病が「認知症」の原因としては圧倒的に多くなっているようです。

 アルツハイマー病の患者が急に増えたわけではなく、これまで見過ごされていたことが窺えて興味深かったです。

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This page contains a single entry by wada published on 2012年7月13日 23:07.

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