「●経済一般」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【290】 川北 隆雄 『図解でカンタン!日本経済100のキーワード』
改めて驚かされるような話は無かったが、行政の原発事故対応批判は予言的。
『地下経済―この国を動かしている本当のカネの流れ (プレイブックス・インテリジェンス)』
地下経済が表経済と独立して存在するものではなく、両者は表裏一体となっていて、むしろ、経済活動とはそもそも裏や地下的なものなのだという、著者らしいスタンスで書かれていました。
最初の方で、電力会社が原発トラブルを隠蔽する一方で、原発事業推進のために巨大な広告費を使ってイメージアップ宣伝をしていると言っており、こうした指摘は当時から珍しくはありませんでしたが、東電を例に、「企業というのは、背負った公共性の度合いが大きければ大きいだけ、腐った体質になっていく」と言い切っているのは分かり易いなあ。
その他にも、大手コンビニなどの「フランチャイズ」のネズミ講的実態や、新卒者を500人から600人と大量採用して、その3分の2を研修終了後にクビにしてしまう技術系人材派遣会社(あったなあ)を挙げて企業活動の無法地帯化を指摘し、更には、商工ローンのヤクザでもやらないような苛酷な取り立てなどを挙げつつ、こうした問題は倫理問題ではなく経済問題であって、実態経済とはえげつないものであるとしています。
著者が最もえげつないとしているのが銀行で、自らの「地挙げ」経験をもとに、バブル期に金融機関は湯水のように金を貸し出し、バブルが崩壊と共に有無を言わさぬ資金回収が始まったことなど挙げ、不動産ビジネスにおいては地上経済と地下経済は表裏一体であり、優良企業と言われる企業であっても、儲けるための行動はヤクザの振る舞いと大きくは違わないとしています。
著者によれば、日本の経済は、政・官・財の「アイアン・トライアングル」構造に深く依存し、そうした構造は表社会か'ら見るよりも、(ヤクザの組長の息子だった)著者がよく知るところの裏社会の構図を表社会に当て嵌めてみた方が、よりよく分かるということでしょう。
話は小泉元首相の北朝鮮訪問の背景にあるアメリカの指図があったということから、アメリカ主導のグローバリズムの浸透とその破綻の予兆にまで拡がる一方で、そうした話のベースにも、個人的体験から得た裏社会の構図がベースにあるため、やや恣意的と言うか、若干"呑み屋"談義になっている印象もあり、話が拡散し過ぎたということもありますが、読み終えてみれば、改めて驚かされるような話は無かったなあと。
ただ一つ―'99年の東海村JOC臨界事故の際に、行政が「半径10キロ圏以内の住民は、安全が確認されるまで家の中にいてください」とし、要するに「外へ出るな」と言ったのは、「ただちに逃げろ」と言えば大混乱になり、パニックが顕在化すると原子力行政が厳しく追及されることになるためであって、でも、著者の後輩の広島で原爆医療をやっている医師から「宮崎さん、逃げたほうがいいよ。風向きによっては東京だってヤバいかも」と言われたとのこと。
著者自身もホームページで逃げろと訴えたそうですが、今回の福島第一原発事故における政府の対応にもまったく当て嵌ることであり、「あらかじめ最悪の事態のときのシミュレーションが行われていないから、実際に危機に直面したときには、うろたえることしかできない」のが役人というものであるとの指摘は、顧みて思えば的確且つ予言的な批判ではありました(そうしたことも含め、経済学というより社会批評的な本か)。
宮崎学(みやざき・まなぶ)
2022年3月30日、老衰で死去。76歳。
京都府出身。早大中退後、週刊誌記者などを経て、1996年に「突破者」でデビュー。84~85年に起きた「グリコ・森永事件」の容疑者の「キツネ目の男」と疑われた経緯などを記し、ベストセラーになった。