【1764】 ○ 五木 寛之(監修)/テレビ金沢(編集) 『五木寛之の新金沢小景 (2005/09 北國新聞社) ★★★★

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個人的に懐かしい街。様変わりしていく一方で、自分が知らなかった歴史の跡も。

五木寛之の新金沢小景1.jpg 五木寛之の新金沢小景2.jpg   五木寛之の金沢さんぽ.jpg
五木寛之の新金沢小景』(2005/09 北國新聞社)五木寛之の金沢さんぽ (講談社文庫)』['19年]

 テレビ金沢で毎週土曜日の夕方に放送されている、五木寛之が金沢市内や近郊を廻りながら、金沢の風景や物語を辿っていくというスタイルのミニ番組「新金沢小景」を本にしたもので、写真が多くて紙も上質、内容的にも丁寧にまとまっているという印象です。個人的には、小学生の初めと、小学生の終りから高校の初めまで金沢に住んでいたので金沢には愛着があり、また、五木氏が金沢に住んでいた頃と時期的に重なるので、その点でも興味をひかれるものがありました。

兼六園 霞が池.jpg 金沢では、現在の金沢市民芸術村(旧大和紡績金沢工場)付近や犀川べり犀川神社付近に住みましたが、自分が通った、元々は金沢の伝統的な長い土塀で囲まれていたという小学校も、尾山神社のすぐ近くあった中学校も今は無く、それぞれ市民体育館とホテルになってしまいました。

 学校の課外授業の写生大会はいつも兼六園で(当時は入園無料で、兼六園が通学路だった生徒もいた)、遠足は卯辰山が定番、五木氏の住んでいた小立野付近も通ったりはしましたが、小説『朱鷺の墓』に出てくるような廓があることは知りませんでした(学校で教えないからね)。

兼六園・霞ヶ池

百万石まつり 提灯行列.jpg そもそも自分は、金沢市と石川県の地歴を学校で教わる小学校の3、4年生の時には金沢にいなかったのですが、「加賀百万石まつり」の前夜祭には提灯行列に5、6年生の生徒が駆り出され(これは今でも変わっていないみたい)、「二つの流れ遠長く 麗澤清んで涌くところ 甍の波 の日に沿いて 自ずからなる大都会」という金沢市歌を歌いながら金沢城付近を練り歩き、歴史を体感した(?)記憶があります(歌詞二番の「眺め尽きせぬ兼六の 園には人の影絶えず」って「その庭人の影絶えず」だとずっと思っていた(笑))

百万石まつり 提灯行列(写真共有サイト「フォト蔵」)
       
尾山神社.jpg 本書は金沢という街をいろいろな角度から百景ほど紹介していますが、タイトルを「百景」としなかったのは、番組の方がまだ続いているからでしょうか。

 番組同様、五木氏の全面監修ということですが、五木氏は百景の冒頭にちょこっとエッセンス的なコメントを寄せているだけで、あとは番組スタッフが頑張った作った本だという印象の方を強く受けます。こうしたローカル番組は各地にあるけれども、こうしてきっちり本になるものは意外と少ないかもしれません(その辺り、やはり五木氏のネームバリューのお陰か)。

尾山神社

 但し、五木氏の金沢にまつわる作品なども紹介されていて、それは本文中にも出てくるし、また多くの文豪が関わりを持った街であるだけに文学的な話題も多く含まれていますが、尾山神社のところで小説『美しい星』の冒頭でこの南蛮風神社を華麗に描写した三島由紀夫の話が出てくるかと思ったら、兼六園・霞ヶ池のところで、その話も含め出ていました(母方が金沢の儒学者の家系だったのだなあ。知らなかった)。

 三島由紀夫は『美しい星』の中でこの池を絶賛、自分は写生会でこの池を写生して「金賞」を貰ったなあ(学校内表彰だから大したことないけど。しかも、マネ、モネ、スーラ が好みの美術教師の趣向に合わせるという、「傾向と対策」の成果であったところがちょっといやらしいが)。

 タイトルに「新」とあるように、五木氏が住んでいた頃とは随分様変わりしているはず。本書に紹介されている古くからあるお店などの中にも、本書刊行後に廃業したところもあるようで、一方で、自分が知らなかった金沢の歴史が今も深く刻まれている場所もまだまだ多くあり(それが地理的には、自分が幼い頃によく見知っていた場所だったりする)、また旅行で行ってみたいと思わせる本でした。

《読書MEMO》
金沢市歌
一.二つの流れ遠長く 麗澤澄んで湧くところ
  甍の数の日に沿いて 自ずからなる大都会
二.眺め尽きせぬ兼六の 園には人の影絶えず
  市人業を勤しめば 巷に精気溢れたり
三.文化の潮早けれど 地の理人の和欠くるなく
  ここ北陸の中心と 永久に栄える金沢市

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This page contains a single entry by wada published on 2012年6月29日 23:48.

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