【1754】 ○ 読売新聞社 『記者は何を見たのか―3.11東日本大震災』 (2011/11 中央公論新社) ★★★★

「●地震・津波災害」の インデックッスへ  Prev|NEXT ⇒ 【1721】 北原 耕也 『津波の町に生きる

震災報道に携わった記者やカメラマンの手記。記事とはまた違った「現場」ドキュメント。

記者は何を見たのか.bmp 『記者は何を見たのか - 3.11東日本大震災

 東日本大震災の取材にあたった読売新聞の被災地の地元勤務の記者、全国の支社・支局から応援取材として投入された記者らの手記により構成されており、原発事故取材とそれに付随する官邸や東電の取材にあたった記者などの手記も含まれていますが、メインは津波災害の取材にあたった記者らの手記で、やはりそれらが一番読み応えありました。

 赴任先の通信部で津波に遭って命からがら高台に逃げたり、孤立して消防庁のヘリで救出されたりした記者らの生々しい体験談もありますが、むしろ手記の多くを占める、応援取材陣として全国各地から現場に入った記者たちの、惨状を目の当たりにして呆然とし、何を伝えるべきか、ただ伝えるだけでいいのか悩みながらも取材にあたる姿勢に共感しました、

 現地に投入されたのは比較的若い記者が多いみたいで、遺族や被災者に感情移入し過ぎてしまって、何を書いてもボツ記事になってしまった記者もいたようで、彼らの殆どが、震災から何日か経て現地入りしているにも関わらず、ある意味、冷静客観的に事実を報道するという身に滲みつき始めたプロ意識が吹き飛ばされるようなくらい、凄まじく且つ悲惨な現地の状況であったことが窺えます。

 手記という体裁をとっているため、途方に暮れ立ち尽くし涙を流しながらも記事を書き続ける、そうした一徹な使命感が感じられる一方で、津波で家族を失った被災者の悲しみの声を伝えきれたのか、自分のやるべきことは外になかったかなどと迷い、自問する記者たちの悩みもストレートに伝わってきます。

 そうしたこともあって、記事にならなかったエピソードや取材後の後日談も多く、新聞記事を読むのとはまた違った「現場」がそこにあったことが感じられ、また、海外にまで配信されることになった写真が撮られた経緯やその後日談もあります。

記者は何を見たのか―3.11東日本大震災.jpg AP通信などを通じて世界中に配信された本書表紙の写真の被写体となった女性は、その後フランスで開催された国際報道写真フェティバルに招待され、支援を呼び掛けるメッセージを伝えることになったとのことですが、写真が撮られたのは、震災2日後の朝、大阪支社から車を駆って12時間かけて宮城県入りした写真部のカメラマンが撮ったもので、その日の夕方、石巻市で、瓦礫の隙間を縫うようにして出てくる人々の中から偶然彼女を見つけ、無意識にシャッターを切ったとのこと、このカメラマンには、「阪神淡路大震災」の際に写真送信を担当する部署に所属していたため、震災を直接には取材しておらず、そのことが16年間「負い目」としてあったとのことです。

 写真の中では、園児5人が犠牲になった幼稚園バスの、そのぐしゃぐしゃになった車体の前で手を合わせ、園児らの名前を一人一人呼び続ける女性を撮った写真に心打たれましたが、この写真も、海外の通信社を経て世界中に配信されたとのこと―震災から10日後に北海道支社から応援取材のため現地に入ったカメラマンが、現地入りした翌日に撮ったものです。

 カメラマンにはカメラマンとしての「現場」との出会いがあり、記者らには記者らのそれがある―記者ら自身は、遺体を発見しても収容できないため放置するほかないような状況があったりして無力感に襲われる一方で、被災者たちが自分たちに救援を求めているのではなく(それは市職員や消防団員に求めている)、自分たちの体験した話を聞いて欲しいと思っているらしいことが次第に感じられるようになり、そのことが取材の動機づけになっているようにも思えました。

 個人的には、原発事故取材に付随する官邸や東電の取材に関する手記は、こうした手記とはやや異質で、極端に言えば、「津波」災害の取材に絞って1冊の本にしても良かったように思います(新聞社の内部政策上、そういう訳にはいかないのだろうが)。

About this Entry

This page contains a single entry by wada published on 2012年6月10日 00:01.

【1753】 ◎ 石井 光太 『遺体―震災、津波の果てに』 (2011/10 新潮社) ★★★★★ was the previous entry in this blog.

【1755】 ○ 小関 与四郎 『クジラ解体』 (2011/07 春風社) ★★★★ is the next entry in this blog.

Find recent content on the main index or look in the archives to find all content.

Categories

Pages

Powered by Movable Type 6.1.1