【1750】 ○ 篠山 紀信 『晴れた日 (1975/05 平凡社) ★★★☆

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'74年の主な出来事を追った写真集。見る人が自分なりのイメージで見ることができるように上手にお膳立てしてみせる。

晴れた日 A Fine Day 1.jpg 晴れた日 A Fine Day 2.jpg  篠山 紀信 『晴れた日』.jpg
晴れた日―写真集 (1975年)』(30.7 x 23.3 x 3.8 cm)/山口百恵 photo by 篠山紀信

 1974(昭和49)年の報道上の主な出来事を追って写真集にまとめたもので、グラフ誌(おそらく「アサヒグラフ」)の連載企画だったのではないでしょうか。
輪島功一
晴れた日76.JPG この1974(昭和49)年という年は、堀江謙一の「マーメイドⅢ」による西周り単独無寄港世界一周早回り記録達成、プロボクシングのジュニア・ミドル級チャンピオンだった輪島功一の7度目の防衛の失敗、シンガー・ソング・ライターのりりィの「私は泣いています」のヒット、野坂昭如などタレント候補が多く立候補した衆議院選挙、山口百恵の国民的アイドル人気の沸騰、オノ・ヨーコの来日、伊豆半島沖地震、ウォーターゲート事件によるニクソン大統領辞任、永遠のミスター・ジャイアンツ長嶋茂雄の引退...etc.と、今更ながら、いろいろな人がいて、いろいろなことがあったなあと思わされます。
オノ・ヨーコ
晴れた日77.JPG 「しおり」に寄稿している五木寛之氏が、この人の写真には「思想」ではなく「視想」がみなぎっている―と書いていますが、確かに「思想」的色合いはゼロであり、タイトルの「晴れた」というのは、ある意味「虚無」にも通じるのかも。

 五木氏の言う「視想」というのはやや抽象的ですが、まさにその抽象性こそこの人の持ち味であり、台風で押し寄せる波や地震に晒された土地を撮った写真などは、報道写真というよりイメージ写真に近いかも。
長嶋茂雄
晴れた日75.JPG 芸能人やスポーツ選手を撮っても同じようなことが言えるけれども、人物の方が風景よりも、フツーの人が見た場合に自分のイメージが付加しやすいかな。

 また、この人は、見る人が自分なりのイメージで見ることができるように上手にお膳立てしてみせるから、人物写真や、端的に言えばヌード写真などにおいて、その世界で永らくメジャーであり得たのだろうなあと(撮られる側は純粋な"客体"となることができる。三島由紀夫などは、撮られたい写真家のタイプだったのだろうなあ)。

 この写真集においても、人物を撮ったものの方が個人的には良いように思いますが、「報道写真」という流れの中で(「報道写真」にならないように)撮っているものと、最初からポートレートのような感じで撮っているものがあり、写真家自身、試行錯誤していたのか?

 本書はこの写真家の最高傑作との評価もありますが、個人的には、「報道写真」を撮らせてみたら、やはり「イメージ写真」みたくなったという感じで、そこがまたこの人らしいところなのでしょう。 "巧まずして"そうなっているわけではなく、(世間一般で言うところの「報道写真」にならないように)計算ずくで撮っているのだと思います。

《読書MEMO》
●篠山 紀信 2020年「菊池寛賞」受賞(作品ではなく人に与えられる賞)
受賞理由:半世紀にわたりスターから市井の人まで、昭和・平成・令和の時代を第一線で撮影。その業績は、2012年より7年間全国を巡回し、のべ100万人を動員した個展「写真力 THE PEOPLE by KISHIN」に結実する

篠山紀信.jpg 篠山紀信(写真家)2024年1月4日老衰のため死去(83歳没)

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