【1737】 ○ 神保 真也 『眠る本―いつでもどこでも快眠健康法』 (1975/09 トクマブックス) ★★★★

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逆説睡眠(REM)睡眠、ナルコレプシー...。分かり易いし、新書本としては充実した内容。

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眠る本図1.jpg『眠る本―いつでもどこでも快眠健康法』['75年/トクマブックス]

 脳生理学者で東大精神医学教室の医局長だった著者が、不眠症など眠りに関する症例を多く取り上げ、眠りの科学を分かり易く解説した本で、個人的には初読はかなり以前ですが、その際に多くの知見を得られた本です(「トクマブックス」にはUFO本とか霊能力本とか結構怪しげな本も多いが、本書は実にまとも)。

 4章構成の第1章「あなたはなぜ眠れないか」では、不眠ノイローゼと本格的な不眠症では異なるとしており、また、不眠症にも、寝付きが悪く朝方になって眠るため起床がつらいタイプや、寝付きはよいが夜中に目を覚まして後は眠れないタイプ、寝付きが悪く一睡もできないものなど、様々なタイプがあって、一時的にこうした症状に見舞われることは誰にでもあるとしています。

 第2章「眠りの科学」の中には、断眠実験の話が出てきますが、米国のディスクジョッキーがチャリティー番組で200時間(8日と8時間)の断眠に挑戦したところ、終りの頃には舌がもつれ、妄想性精神病の症状を呈したとのこと、本書刊行時点での断眠の世界記録は、17際の少年による264時間(11日間)だそうです。

 この記録、当時の睡眠学の権威ウィリアム・C・デメントも、有り得ることとしていますが(この頃、デメントの『夜明かしする人,眠る人』やアン・ファラデーの『ドリームパワー』も読んだなあ)、著者は、その間にマイクロ・スリープ(微小な眠り)があったのではないかとの疑念を呈しています(脳波測定器で検証しながらの断眠実験では、4日から5日程度が限度であると)。

 逆説睡眠(REM睡眠)について知ったのも本書で、これは2時間の睡眠サイクルのうちの30分間は、眠っているんだけれど脳が活発に活動しているパラ睡眠状態であるというもの。新生児はその睡眠時間(16時間から18時間)の50%は逆説睡眠で、それが、成長とともにその比率が減り、5歳頃には25%程度になっているとのこと(REM睡眠というのは、寝ている赤ちゃんの瞼の下の眼球の動き(Rapid Eye Movement)から発見されたことに由来する名称)。

 第3章「何が眠りを妨げているのか」では、不眠の原因を様々な角度から解説していますが、特にうつ病による不眠を重点的に取り上げていて、これ、自殺に至るケースも多いそうです。怖いなあ。うつ病と不眠症の関係は、最近でも、坪田聡 著『不眠症の科学-過労やストレスで寝つけない現代人が効率よく睡眠をとる方法とは?』('11年/サイエンス・アイ新書)などで取り上げられています。

眠る本965.JPG 睡眠障害の様々な種類をあげていますが、ナルコレプシー(居眠り病)もその一つ(警官が泥棒を追いかけようとした途端ナルコレプシーに襲われ、地べたにうっぷしている挿絵があるけれど、こんなにいきなりナルコに陥るものなのかなあ)。「居眠り先生」こと色川式大(=阿佐田哲也=朝だ、徹夜)のそれが有名でした。また、子供の不眠と老人の不眠とでは原因が異なるともしています。

 第4章「どうすれば眠れるか」では、まず、不眠の理由を検討し、原因を把握して納得すること、そして、何事も欲張り過ぎず、自分の生活のリズムに従い、寝る前に気にかかることは片付けておくことが大事だとしています。

眠る本66.JPG やはり、運動が一番いいみたいで、運動は眠りのリズムを整え、脳の働きをよくするそうです。あとは、食事は腹八分が良く、タバコは、気分転換効果はあるけれど吸い過ぎるとニコチンが脳を覚ますので眠りが浅くなると。寝酒は有効だけれども、睡眠薬だと思うのは禁物...etc.

 安眠のための環境づくりについても、室温・冷暖房や寝まき・枕の選び方等いろいろ書かれていて、最後に睡眠薬の上手な使い方が書かれてますが、これはやはり医者によく相談した方がいいのでしょう。

 睡眠薬への過度の依存は問題があるとし、「睡眠薬中毒になった芥川龍之介」と「クスリを上手に使った西條八十」を対比させています。

 分かり易いし、読んでいて面白く、個人的には充実した内容でした。

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