【1728】 ○ 堀江 邦夫(文)/水木 しげる(絵) 『福島原発の闇―原発下請け労働者の現実』 (2011/08 朝日新聞出版) ★★★★

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原発労働の実態のイラスト入りルポ('79年)の復刻。描かれた経緯や復刻の経緯なども興味深い。

福島原発の闇.jpg 『福島原発の闇 原発下請け労働者の現実』(2011/08 朝日新聞出版)

 『原発ジプシー』('84年/現代書館)の堀江邦夫氏の、福島原発で下請労働者として仕事した体験を基にしたルポルタージュに水木しげる氏の漫画を組み合わせたもので、'79年の「アサヒグラフ」10月26日号・11月2日号に掲載されたもの(原題「パイプの森の放浪者」)を、元の大判サイズから普通の単行本サイズにしての復刻版。

福島原発の闇1.jpg あとがきによると、当時、堀江氏は3カ所の原発で下請労働者として働き、原発内における作業員の労働環境の実態を密かに執筆していたところ(これが後に『原発ジプシー』という本になる)、ある日突然、「アサヒグラフ」の編集者であった藤沢正実氏から電話があり、朝日新聞東京本社で会ってみると、現在執筆中の原稿の一部を再構成して「アサヒグラフ」に掲載したい、一緒にイラストも掲載したいと思うが、水木しげる氏に依頼するつもりだとの話だったとのこと。

 堀江氏は、原発で働いていることは言わば"隠密"取材であったため、限られた一部の人しか知らないはずなのに、大手新聞社の編集者がどうしてそれを知りえたのかも不思議だったし(藤沢氏は情報源を明かさなかった)、水木氏は当時から高名な漫画家ではあったものの、原発労働のことをどれだけ知っているのかという不安もあったと言います。

 結局、水木氏、藤沢氏と、一度、福島原発のある浪江へ行ってみることになり、常磐線特急の車中で、その実態を水木氏に身振り手振りを交えて熱弁することになったということですが(当時、水木氏57歳、堀江氏31歳)、水木氏のイラストは、堀江氏の思いを受け止め、原発労働の危険性と恐怖、非人間的な過酷さを、強烈な感性で以って見る者に強く印象づけるものとなっています。

福島原発の闇2.jpg 堀江氏の原発労働のルポルタージュ部分も読み易く、'79年4月に、東芝プラントの孫請け業者の社員だった32歳の青年が、福島第一原発の正門近くの雑木林で縊死したことから始まる書き出しは衝撃的(この青年は、福島に来る前は浜岡原発で働いていた)。遺書には、「目が悪い。頭が悪い。とにかくおれは精神的に疲れた。人生の道にもついていけない。寂しい。希望もない」とあり、「原発の仕事も考えもんだ」との言葉で終わっていたそうです。

 堀江氏自身も原発内で作業中に肋骨を折る重傷を負いますが、労災申請をしないでくれと、会社から言われたとのこと。とにかく、元請け会社からも孫請け会社からも、作業に関する安全教育は実質的には行われておらず、原発の危険性を殆ど知らされないまま、当時の原発労働者は作業にあたっていたようですが、こうした実態はつい最近に至るまで続いていたものと思われます。

 因みに、これもあとがきによると、朝日新聞社内でも、70年代後半から80年代初頭にかけて「アサヒグラフ」が原発問題を度々追っていたことは知られているものの、この堀江・水木コンビの作品は忘れられていたようです。

 それが、今回の福島第一原発事故を受けての、「朝刊朝日」臨時増刊「朝日ジャーナル 原発と人間」('11年5月24日刊)の編集作業中に、昔の「アサヒグラフ」から、この本の元となった「パイプの森の放浪者」をたまたま見つけたということらしく、その迫力に改めて圧倒され、また、日本で初めて書かれた原発労働のルポルタージュではないかということもあって、今回の復刻となったようです。

 原発労働者が、原発の安全を保守するための定期点検の際に、その作業において危険な被曝状態に置かれるというのも皮肉だし、30余年前の世間からは忘れ去られていたルポルタージュが、原発事故を契機に再び日の目を見るというのも、ある意味皮肉な話かも。

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This page contains a single entry by wada published on 2012年4月 9日 01:01.

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