【1725】 ○ 新評社 『別冊新評 作家の死―日本文壇ドキュメント裏面史』 (1972/08 新評社) ★★★☆

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日本の文学作家って、大所に情死を含め自殺した人が多いと改めて感じた。

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別冊新評 作家の死 日本文壇ドキュメント裏面史 ・文壇九〇年の過去帳』(1972/08 新評社)

 明治以降の作家の死を、死去当時の新聞記事や他の作家による弔辞、弔意文などから追った記録集で、こういうのを読んでいると、弔辞を読んだ作家が次は弔辞を読まれる側に廻っていたりして(要するに亡くなっていて)、まあ、人生には限りがあると、改めて「死」というものを意識させられます。

 昔はやはり、作家も一般人同様、肺結核などの病いで亡くなる人が多かったわけですが、そうした中で、自殺に関しては、突然のことだけに周囲の衝撃も大きかったようです(本書の中で一番ショッキングだったのは、拷問死した小林多喜二の、仲間の医師による死体検分記録だったが、これは別格)。

川端康成2.jpg ある人の説では、作家の自殺率が普通人より高いのは日本も海外も同じだそうだけれど(中国などは確かにそうだが、その原因には政治的なものが絡んでいることが多いようだ)、日本の場合、芥川・太宰から三島・川端まで、日本文学の代表格と言うか"大所"とも言える作家が自死していることが大きな特徴ではないかなあ。
 そもそも、この別冊特集は、川端康成のガス自殺(1972/04/16)が刊行の契機になっているようだし。

 芥川龍之介の自殺(1927/07/24)以前に自殺した作家というと、有島武郎の情死(1923/06/09)が思い浮かびますが、明治以降、最初に自殺したのは、詩人であり思想家でもあった北村透谷(1894/05/16)だったとのことで、一度喉を刺して死に切れず未遂に終わった半年後に、首吊り自殺したそうです

 一方、太宰治(1948/06/13)の情死は、当時の新聞記事などを読むと、無理心中に付き合わされた"事故"だったっぽいです。
 でも、その死に影響を受けて、田中英光みたいなオリンピックのボート選手としての出場経験のある作家まで、太宰の墓前で睡眠薬服用して手首を切って自殺する(1949/11/03)という事態になってしまうわけで、一部に連鎖反応的要素もあるかも。川端康成の自殺の一因と言われるのも三島由紀夫の割腹自殺(1970/11/25)だし...。

 三島が自決死したのは45歳の時。太宰の死は38歳で、田中英光の自死は36歳。芥川は35歳で、作家の自殺の"先駆的"存在である北村透谷となると25歳。こうなるともう、作家は早く死ななければならないという感じすらしてくる―。

 サブタイトルに「裏面史」とありますが、大概の人が自殺した人の生き方を見習いたいとは思わないのが普通であって、この辺りに"日本文学の不幸"があるとするのは、あながち悲観的過ぎる見方とも言えないのではないかなあ。

 記録としては貴重だと思うけれど、紙質等は保存版仕様ではなく、通常の月刊誌と同じである点が...(「別冊」だから仕方がないのか)。

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This page contains a single entry by wada published on 2012年4月 8日 00:22.

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