【1721】 ○ 北原 耕也 『津波の町に生きる―ルポルタージュ3・11大津波 釜石の悲劇と挑戦』 (2011/12 本の泉社) ★★★★

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朝日版は「写真集」、産経版は「記録」として、それぞれ"保存版"に値する内容。

津波の町に生きる.jpg 『津波の町に生きる―ルポルタージュ3・11大津波 釜石の悲劇と挑戦』(2011/12 本の泉社)

釜石IMG_2803.JPG 著者は岩手県石巻市の出身で、東日本大震災による津波で108人の児童の内74人が死亡・行方不明となった大川小学校は郷里に近く、その大川小学校の悲報と併せて、同じ岩手県の釜石市の鵜住居(うのずまい)小学校と釜石東中学校で、登校児童・生徒は全員が無事に避難し、一人の死者も出さなかったという、所謂"釜石の奇跡"とマスコミが報じたニュースに接します。

釜石IMG_2783.JPG 大川小学校の悲劇の痛みを胸に秘めつつ、著者は、どのようにすれば津波災害から児童・生徒の命を守ることができるのかを検証するために釜石市を訪れ、鵜住居小学校と釜石東中学校の児童・生徒の避難の経緯やその背景にあったものを、学校関係者などに具(つぶさ)に取材したルポルタージュが本書です。

釜石IMG_2798.JPG その結果、中学生が小学生を高所へ誘導し、全員が津波の難を逃れたという"釜石の奇跡"は、実は"奇跡"などではなく、普段からそうした訓練をしていた成果の現れであったことがわかります(震災時に先生が「訓練通りだよ」と生徒に声掛けしたが、その"訓練"とは、中学生が小学生の避難を助ける小中学校合同避難訓練を指す)。

釜石IMG_2791.JPG そうした避難訓練だけでなく、釜石市の小中学校では、防災教育も必須授業として教育カリキュラムに織り込むなどしており、そのことが、市内の小中学校全14校の児童・生徒の生存率がほぼ100%近いものであったという、今回の結果に結びついたこと、とりわけ釜石市の中でも、死者・行方不明者が居住人口6014名の1割近くの574名と、最も被害の大きかった鵜住居地区において(これに次ぐのが釜石地区の居住人口6971名に対し死者・行方不明者240名)、周囲の惨状の中で、この両校の登校児童・生徒の"全員無事" が際立って目立ったものとなったことなどが浮き彫りになってきます。

(写真は何れも震災から約1年後の2012年3月25日、釜石東中学校内及びその近辺にて撮影)

釜石IMG_2788.JPG 歴史を振り返ると、明治三陸地震津波では、現在の釜石市にあたる釜石町・鵜住居村・唐丹村で津波前人口12665名に対し6477名と半数以上もの死者を出しており、こうした過去の被災から得た教訓が、"教育努力"によって実地の場で生かされたことになります。

 また、市内にある津波に関する多くの石碑なども訪ね歩いており、「津波てんでこ」という言葉に象徴されるように、町全体の風土として、そうした過去の教訓を将来に継承していこうという土壌があることが窺えました。

釜石IMG_2789.JPG 振り却って大川小学校のケースをみると、地震発生を受けて児童は全員校庭に避難したものの、そこから先の避難先が具体的に特定されていなかったため、どこへ逃げるか議論している内に避難が遅れ、津波に襲われたという―いち早く「山さ逃げよう」と言った児童もいたとのことですが、そうしたことが事実なのかどうかも分からないし、著者自身も、何故すぐ裏手にある山の方へ逃げなかったのかとの疑問を抱きつつも、大川小学校の教職員を責めることはできないとしています。

 釜石にしろ石巻にしろ、震災後1年を経ても、津波の爪痕は大きく、特に釜石の瓦礫の撤去は遅れていますが、人々は災害の後も津波の町に生き、また生きつづけなければならない―そうした人々の苦悩と苦闘を追うと共に、大災害に際して子供達の命を守る方法はあるのかを真摯に探っており、とりわけ教育関係者に読んで欲しい本ですが、一般の人が読んでも教えられることの多い本です。

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This page contains a single entry by wada published on 2012年4月 7日 21:30.

【1720】 ○ 徳田 雄洋 『震災と情報―あのとき何が伝わったか』 (2011/12 岩波新書) ★★★★ was the previous entry in this blog.

【1722】 ○ 三浦 一郎 『年号記憶術―世界史を俳句で覚える本』 (1968/11 カッパ・ブックス) ★★★★ is the next entry in this blog.

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