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低線量の放射線の危険性についての説明がしっくりきた。反原発ではないが、マトモであり気骨がある。
『内部被曝の真実 (幻冬舎新書)』 児玉 龍彦 氏
東大アイソトープセンター長である著者(医学・生物学者)が、'11年7月27日の衆議院厚生労働委員会「放射線の健康への影響」において、参考人としての意見説明し、質疑応答したものの採録がメインとなっている本。
そう言えば、それ以前の5月23日の参議院行政監視委員会「原子力発電所事故と行政監視システムの在り方」では、小出裕章(原子力工学者)、後藤政志(元原子炉格納容器設計者)、石橋克彦(地震学者)、孫正義(ソフトバンク社長)の4氏が参考人として意見を述べていますが、こういうのってテレビ中継されないんだなあ(参議院の4氏のものは、ユーストリームのライブで中継され、著者のものは審議中継サイト「衆議院TV」で流されたようだが)。
若干、お手軽な本づくりという気もしないではないですが、本来公開されてしかるべき内容のものが、限られた範囲でしか公開されていないような状況においては、これもありかなあと(現在はネット動画で見ることができる)。
著者が委員会でメインに訴えたのは、現行の法律は、高いレベルの放射性物質を少量だけ扱う場合のみを想定しているのに対し、今回の福島第一原発の事故では、広島原爆の20発分から30発分相当の大量の放射性物質が放出され、現行法律が全く対応できていないので、現状に対処できる法律が必要であるということです。
更に、低レベル放射能の影響は多様な形で現れ、特に子供、乳幼児、胎児を守る必要があり、チェルノブイリ原発事故で、小児甲状線がん以外に、被曝を直接原因とする病気の発症は無かったという説明は誤りであると。また、質疑の中では、今は全力で、除線に取り組むべきことが急務だとも述べています。
専門用語は多く含まれますが、話し言葉で書かれていて、しかも、基本的には専門家でも何でもない国会議員にも分かるように噛み砕いて説明しているため分かり良かったし、個人的には、内部被曝についてもさることながら、低線量の放射線の危険性についての説明がしっくりきました。
つまり、大量の放射線がDNAをズタズタにしてしまえば細胞は死ぬだけだけれど、低線量放射線は細胞に異変を与え、DNAを修復する遺伝子が異変をきたすと、最初の1回は大丈夫だが、10年から30年経って、第2段階の異変が起きるとガン細胞になるということなんだなあ。
修復遺伝子の機能に異変が生じる問題と、その機能の発効のタイミングの問題とを分けて考えれば分かる話だけど、国会議員の先生は分かったかなあ。
因みに、著者が主張する、①国策として食品、土壌、水を測定してゆく、②.緊急に子供の被曝を減少させるために新しい法律を制定する、③国策として汚染土壌を除染する技術に民間の力を結集する、④除染には何十兆円という国費がかかるため、負担を国策として負うことを確認し、除染の準備を即刻開始する―の4点の内、経済学者(経済評論家?)の池田信夫氏は自らのブログで、「③まではわかるが、問題は④だ。朝日新聞のいうように年間1mSvの放射線も除去しようとすれば、80兆円ぐらいかかるだろうが、国の一般会計は92兆円。そんな巨額の負担を「国策として負う」ことはできない」としています。
だからって、国が何も負担をしなくてもいいということにはならないでしょう。廃炉にも金はかかるが、とりあえず金食い虫である原発の増設を止めたらどうかと思うんだけど(池田氏は、以前から原発に対しては御用的なスタンス)。
因みに著者は、老化の遺伝子の研究で世界の最先端を行く成人病研究者でもあり、'11年12月、英科学誌ネイチャーが発表した「科学に影響を与えた今年の10人」の一人に選ばれています。
原発に関しては、推進派でも反原発でもないようだけれど、師匠が、今回の震災でも、国から現地に派遣され、安全神話を説いて回った長瀧重信・長崎大名誉教授であり(「スリーマイルではこれまでに健康被害は報告されていない」と発言して、小出裕章・京大原子力研助教らを呆れさせた)、一方こちらは、政府の放射線の許容基準値の決め方その他諸々の対応について厳しく批判したことになります(本書からはそれほど感じられないが、動画を見ると、まさに満身の怒りをぶつけているという感じ)。
文中で、長瀧氏の功績に敬意を表していますが、立場はかなり違うというか、この人の方がマトモであり気骨がありそう。