「●原発・放射能汚染問題」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1709】 石橋 克彦 『原発を終わらせる』
やはり、原子力科学者の書いたものでは、この人の本が一番分かり易い。
『原発のウソ』('11年6月/扶桑社新書)の小出裕章氏が引き続き一般向けに書いた新書で、『原発のウソ』があっという間に10万部を超えるベストセラーになったにも関わらず、どういうわけか比較的"新進"のレーベルからの刊行が続くなあという印象も(ルネッサンス新書って、自費出版原稿を募っているけれど、まさか小出氏の本が自費出版ということはないと思うが)。
序章に自らが原子力研究を通して反原発運動に転じた経緯が書かれていて、高木仁三郎の『市民科学者として生きる』('99年/岩波新書)を思い出しましたが、著者の場合は、京都大学原子炉実験所に入所以来37年間「助手」(今は"助教"と言う)のままでいて、その昇進の停滞は"ギネス"ものと冗談めかしながらも、科学者は、科学の領域に逃げ込んで「専門バカ」になってはならず、しっかり社会的責任を負うべきであることを強調しています。
本論部分は『原発のウソ』を先に読んだので、内容が重なる部分もありましたが、やはり、原子力科学者の書いたものでは、この人の本が一番分かり易いのでは。
第一章で福島第一原発が今後どうなるのかを事故の経緯から遡って解説したうえで、第二章で、危険なのは福島原発だけではないことを解説していますが、その冒頭に南海トラフ沿い、つまり想定東海地震の震源域のほぼ中央にある、浜岡原発の危険性が指摘されています(「破局的事故が起きれば、関東圏を中心に192万人が死亡」すると)。
今日('12年4月1日)の新聞各紙で、内閣府が設けた有識者による「南海トラフの巨大地震モデル検討会」(座長:阿部勝征東大名誉教授)による、南海トラフ地震の新たな想定が報じられていますが、それによると、震度6弱以上の恐れがある地域は24府県687市町村に及び、中央防災会議が'03年に出した20府県350市町村から、総面積で3.3倍に増え、震度6強以上になる地域も5.6倍に拡大し、また、津波高については、10メートル以上の地域が従来の2県10市町から11県90市町村に増えています(最大の津波高が想定されたのは高知県黒潮町の34.4メートル)。
2012年4月1日付 朝日新聞一面より
朝日新聞の一面には、浜岡原発のある御前崎市で、従来の想定の7.1メートルから14メートル近く引き上げられ、地震で地盤隆起2.1メートルを差し引いても、現在計画中の18メートルの防潮壁を超える可能性があるため、原発の敷地が浸水する可能性があるとの記事もあります。
この、浜岡原発について著者は全廃炉を主張していますが、中部電力の津波対策についても批判しており、中風電力の本書刊行当時の「15メートルの防波堤を作れば安心」という見方に対し、原発直下でマグニチュード8.5の巨大地震が起きれば、50メートル以上の津波もあり得る、「壁の高さを15メートルにした理由や根拠があるなら、ぜひ教えてほしい」と、この頃から述べています(マグニチュード8.5は、当時の東海・南海予測で、これも今回の検討会で9.1に改められた)。
本書中盤(第三章)は、読者からの質問にQ&A形式で回答するかたちになっており、「夫に日給3万円、福島原発で働かなかという話がきていますが、被曝しないか心配です」などといった具体的な15の質問に、50ページに渡って丁寧に答えています。
最終第四章は、未来を担う子供のために大人たちが何をすべきか訴えていますが、一方、「原子力村」の人々が原発を簡単に手放すと考えるのは楽観的すぎるとし、新エネルギーにこだわり過ぎると「それを実現するまでは原発を認める」ということになりかねず、原発の即刻廃絶のためには、火力発電をフル稼働することに尽きるとしている点が示唆的でした(それで電力供給は足りるんだよね)。