【1715】 ◎ 樋口 健二 『原発崩壊―樋口健二写真集』 (2011/08 合同出版) ★★★★☆

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原発労働者の被曝によって受けた苦しみを如実に伝える写真集。日本のエネルギー産業の暗黒史。

原発崩壊 樋口健二写真集.jpg 『原発崩壊』(2011/08 合同出版) 樋口健二.jpg 樋口健二 氏
(26.8 x 21.8 x 1.4 cm)

 原発で働く労働者や原発の付近に住む人々の暮らしぶりを40年近くに渡って取り続けてきた樋口健二氏の、これまで発表してきた写真に、福島第一原発事故後に撮った写真を加えて、ハードカバー大型本として刊行したもの。

 中盤部分の、かつて原発施設内で働いていて骨髄性白血病やがんで亡くなった人の亡くなる前の闘病中の写真や、亡くなった後の遺影を抱えた遺族の写真、更に、亡くなるに至らないまでも、所謂「ぶらぶら病」と言う病いに苦しんでいる様子を撮った写真などが、とりわけ衝撃的です。

 それらには、樋口氏自身が取材した故人や遺族、闘病中の人たちへのインタビューも付されていて、原発作業員の多くが、原発の危険性を何となく知りながらも具体的な説明を十分に受けることなく、危険性の高いわりには無防備で過酷な環境の中で作業に従事し、知らずの内に被曝し、重い病いとの闘いを強いられたことが窺えます。

 その中には、日本で初めて原発被曝裁判を提訴した岩佐嘉寿幸さん(故人)の写真もありますが、原子炉建屋内の2時間半の作業に1回従事しただけで被曝し、重い皮膚炎に苦しみ続けることになった岩佐さんは、それが"放射能性皮膚炎"であると診断した医師の助言と協力により、国と敦賀原発(日本原子力発電)を訴えましたが、政府と日本原電が編成した特別調査団による'被曝の事実無し'との政治的判断の下、敗訴しています。

 しかし、岩佐さんのように世の表に現れた原発被曝者は氷山の一角であり、多くの原発被曝者が、原発での被曝が病いの原因だと確信しつつも、もの言えぬまま亡くなったり、生涯を寝たきりで過ごすことになった事実が窺えます。

樋口健二氏 講演会・写真展.jpg 本書によれば、1970年から2009年までに原発に関わった総労働者数は約200万人、その内の50万人近い下請け労働者の放射線被曝の存在があり、死亡した労働者の数は約700人から1000人とみていいとのこと。

 こうした原発下請け労働者の労働形態についても解説されていて、下請、孫請け、ひ孫請け、更に親方(人出し業)がいて、その下に農漁民や非差別部落民、元炭鉱夫や寄せ場の労働者などがおり、しかも、この人出し業をやっているのは暴力団であったりするわけで、ここに一つのピラミッドの底辺的な差別の構造があるとのことです。

 こうした人達は、被曝してもまず労災申請が認められることはこれまで無く、そうした働き方と犠牲の上に原発による電力供給がこれまで成り立ってきたことを思うと、あまりに歪な構造であったと思わざるを得ません(これはまさに、日本のエネルギー産業の暗黒史!)。

 結局、原発というのは、被曝労働による犠牲を抜きにしては成り立たないものなのでしょう。併せて、近隣住民の健康と生活をも破壊してきたわけで、こんなことまでして原発を存続させる意義は、どこにも無いように思われます。

樋口健二氏 講演会・写真展ポスター

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This page contains a single entry by wada published on 2012年3月31日 00:51.

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