【1714】 ○ 鎌田 慧 『原発列島を行く (2001/11 集英社新書) ★★★★

「●原発・放射能汚染問題」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1703】 肥田 舜太郎/鎌仲 ひとみ 『内部被曝の脅威
「●集英社新書」の インデックッスへ

どの地域においても地域活性化に繋がるどころかコミュニティの亀裂を深める疫病神だった原発。

原発列島を行く.jpg  鎌田 慧.jpg 鎌田 慧 氏   原発事故はなぜくりかえすのか.jpg 
原発列島を行く (集英社新書)』['01年] 高木仁三郎『原発事故はなぜくりかえすのか (岩波新書)』['00年] 

 原子化学者の高木仁三郎(1938-2000/享年62)は、ガン宣告を受けた翌年に遺書のつもりで『市民科学者として生きる』('99年/岩波新書)を書きましたが、その本の刊行された'99年9月に茨城県東海村で起きたJOCの臨界事故を受けて、'00年夏に『原発事故はなぜくりかえすのか』('00年12月/岩波新書)を口述筆記で著し、それが遺作となりました。

 高木氏の本が科学者による反原発の書であるならば、「週刊金曜日」に'99年2月5日号から'01年9月7日号までに連 載された鎌田慧氏の『原発列島を行く』は、ルポライターによる反原発の書であり、この連載の間にJOCの臨界事故があったことになります。

 JOCの臨界事故を機に、その頃の反原発の気運は、少なくとも、東日本大震災による福島第一発電所の事故の直前よりも高かったのかも知れません(片や岩波新書、片や集英社新書で、定番と言えば定番。全メディア的展開では無かったのかも知れないが)。一方、推進派はこの頃、ほとぼりが冷めるのを暫く待っていたのか―。

 早くから原発を取材してきた鎌田氏ですが、本書では、主に過疎地と言える地域にある全国の原発を隈なく巡り(核燃料サイクル基地(青森・六ヶ所村)・処分研究所(岐阜・東濃地区)含む)、その地域に原発が誘致された経緯や、金に糸目をつけない国のやり方、交付金漬けにされてしまった地方財政、押し潰された民意、失われた自然、地域住民の不安や怒り、落胆などをルポしています。

 先ず気づかされるのは、70年代から80年代にかけて、原発誘致により多額の交付金を受け、"町興し"と言って人口規模に不釣り合いな豪奢な箱モノ施設を作ったりしたこれらの地方自治体が、鎌田氏が取材した時点で、町が栄えるどころか、一向に過疎化の問題から抜け出せていないことです。

 更に、原発の誘致に際して、町や村が賛成派と反対派に分かれ、地域コミュニティに大きな亀裂を生じさせているということが、判で押したようにどの自治体にも起きていて、振り返って見れば、原発はどの地域にとっても疫病神だったということになるのではないでしょうか。

 取材の時点で、全国で運転中の原発は50基。その他に建設中4基、計画中3基で、そうすると2010年までには57基になっていたはずの計算ですが、東日本大震災前で、営業運転中は54基(本書の最後に出てくる浜岡原発4基の内、浜岡第一、第二が'09年に運転終了するなどしている)。更に、建設中は2基、着工準備中は12基という状況で、全部出来あがると68基になりますが(北村行孝、三島勇『日本の原子力施設全データ 完全改訂版』('12年/講談社ブルーバックス))、計画が中止されるものが出そうな様子です。

 鎌田氏が取材した当時でも震災前でも、稼働中の原発が全部止まったら電力供給は破綻するとの見方が当然のようにありましたが、福島第一原発の事故を受けて各原発とも定期点検やストレスチェックに入っているため、2011年3月末現在で、54基中、稼働しているのは、北海道電力の泊原発3号炉の1基だけです(これも5月に定期点検のため止まる)。
 少なくとも、夏場の電力消費のピークを除いては、原子力なしで充分やっていけるということの証ではないかとも思ったりします。

About this Entry

This page contains a single entry by wada published on 2012年3月31日 00:22.

【1713】 ◎ 高木 仁三郎 『原発事故はなぜくりかえすのか』 (2000/12 岩波新書) ★★★★★ was the previous entry in this blog.

【1715】 ◎ 樋口 健二 『原発崩壊―樋口健二写真集』 (2011/08 合同出版) ★★★★☆ is the next entry in this blog.

Find recent content on the main index or look in the archives to find all content.

Categories

Pages

Powered by Movable Type 6.1.1