【1713】 ◎ 高木 仁三郎 『原発事故はなぜくりかえすのか (2000/12 岩波新書) ★★★★★

「●原発・放射能汚染問題」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1714】 鎌田 慧 『原発列島を行く
「●岩波新書」の インデックッスへ

反原発科学者の遺作。立ち上がりから杜撰だった日本の原子力開発の実態がわかる。

原発事故はなぜくりかえすのか.jpg  高木 仁三郎.jpg 高木仁三郎06.jpg
原発事故はなぜくりかえすのか (岩波新書)』 高木仁三郎(1938-2000/享年62)/原子力資料情報室の設立総会(1999年1月30日)

 『プルトニウムの恐怖』('81年/岩波新書)などで早くから原発とそれを巡る放射能汚染事故発生の危険性を訴え、原子力科学者でありながら「反原発の旗手」でもあった高木仁三郎(1938-2000)が直腸ガンと告知されたのは'98年夏のことであり、最後に書き遺しておきたいこととして『市民科学者として生きる』('99年/岩波新書)を著します。

東海村JCO臨界事故.bmp しかし、その「最後の著書」が刊行された'99年9月に、茨城県東海村でJOCの臨界事故が起きたことで、さらに「言い遺しておきたいこと」ができた著者が、闘病生活の病床で口述筆記により著したのが本書です。

東海村JOCの臨界事故

 実際に録音が行われたのが'00年の夏で、著者は同年10月、本書刊行前に帰らぬ人となってしまいましたが、すでに本書口述中に自らの死を覚悟していたと思われ、本書の最後には「偲ぶ会」での最後のメッセージが付されています。

 原子力発電の科学的・社会的な問題点と放射能汚染事故の危険性を訴える語り口は淡々としており、それでいて、JOCの臨界事故という悲惨な出来事が、原子力産業・技術・文化の様々な問題点の集積の結果として起きたものであることを、鋭く指摘しています。

 自らが原子化学者として日本原子力事業や東大原子力研究所といった企業・機関で研究に携わっていたころの原子力・放射能の危険性に対する認識の甘さや管理の杜撰さ―これは体質的なものであり、どうしてそのような体質が成り立ったか、更にそれが綿々と続いているのは何故かということを、体験的に分かり易く述べています。

 それによれば、国の原子力開発事業というものは、徹頭徹尾、科学という実態も或いは産業的基礎もないままに、上からの非常に政治的な思惑によってスタートし、更に、三井・三菱・住友といった財閥系企業や大手銀行がそれに乗っかり、「議論なし」「批判なし」「思想なし」の中で進められとのこと。この「三ない主義」は徹底されていた、と言うより、むしろ強制であったとしています。

 そうしたことに疑問を感じた科学者も当初は少なからずいて、著者もその一人でありそうしたことから反原発に転じましたが、反原発に転じなくとも多くの優秀な科学者が他分野の研究に転じ、上から指示を唯々諾々と守る、思想無き体制順応型の技術者や科学者だけが"エリート"として後に残った末に、国・企業と一体となって、所謂「原子力村」という特殊な社会を形成していったようです。

 著者は20代の頃からそうした実態を生身で体験していたわけですが、自分たちが研究に携わっていたころ安全管理意識の希薄さ、実験研究等における放射能管理の杜撰さなども語っており、そうした意味では、著者の研究人生を反省と共に振り返るものともなっている一方で、特定の科学者に見られる思考回路の科学的な弱点を指摘し、更には、科学者として「自分の考え」を持つことの重要さを訴えています。

 また、こうした科学者個々に対する啓蒙だけでなく、国・政府機関などの原子力行政の在り方の問題点を指弾するものとなっており、更に一方では前著同様に、原子力科学の入門書にもなっており、プルトニウムをはじめとする様々の放射能性物質の特性やその危険性が、分かり易く解説されています。

 原子力推進派の科学者の中には、著者のことを蛇蝎の如く嫌う人も多くいたかと思われますが(そうした人には著者の死は安堵感を与えたかも知れない)、一方で、その科学的水準の高さ、指摘の的確さに密かに畏敬の念を抱いていた人もいたように聞きます。

 東日本大震災による福島第一原発事故が起きてみれば、ある意味、予見的な著者であったとも言えますが、本書刊行以前にも多くの原発事故及び事故隠しが行われていたことが本書の中で一覧に示されており、むしろ、本書におけるプルトニウムの危険性の記述を読んで、本書刊行の契機となったJOCの事故が、使用済み核燃料からプルトニウムを取り出すためのMOX燃料を巡る事故とであったことを思うと、更に先々の危険を予言している本であるとも言えます(その予言が的中しないことを祈るのみだが)。

About this Entry

This page contains a single entry by wada published on 2012年3月20日 00:21.

【1712】 ○ 広瀬 隆/明石 昇二郎 『原発の闇を暴く』 (2011/07 集英社新書) ★★★★ was the previous entry in this blog.

【1714】 ○ 鎌田 慧 『原発列島を行く』 (2001/11 集英社新書) ★★★★ is the next entry in this blog.

Find recent content on the main index or look in the archives to find all content.

Categories

Pages

Powered by Movable Type 6.1.1