【1711】 ○ 日隅 一雄/木野 龍逸 『検証 福島原発事故・記者会見―東電・政府は何を隠したのか』 (2012/01 岩波書店) ★★★★ (△ 伊藤 守 『ドキュメント テレビは原発事故をどう伝えたのか (2012/03 平凡社新書) ★★★

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情報公開が遅れる理由の全てを解明できなくとも、こうした事後検証はやはり必要。

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検証 福島原発事故・記者会見――東電・政府は何を隠したのか』(2012/01 岩波新書)/『テレビは原発事故をどう伝えたのか (平凡社新書)

 震災並びに福島第一原発の事故後、政府や保安院、東電の記者会見に出続けた2人のフリージャーナリストによる本(日隅一雄氏は弁護士でもあるが)。

 連日のように見られたドタバタの記者会見と後から後から出てくる新事実。そのうち、また何か隠しているのではないなと思いながら報道を眺めることが常態化してしまいましたが、それだけではだめで、やはり、誰が情報を操作したのかまでは行かなくとも、どれだけ情報の提供が遅れたのかくらいは最低限、こうした事後検証が必要でしょう。                福島第一事故の評価 最悪の「レベル7」に引き上げ(ANN 11/04/12)

  事故後1ヵ月も経って、4月12日にようやっと事故評価を「レベル5」から最悪の「レベル7」に引き上げたというのもヒドイ話であるし、核燃料のメルトダウンは早くから多くの専門家がその可能性を示唆していたにも関わらず(但し、当初テレビ出演し解説をしていた御用学者らは何れも根拠の無い楽観論を展開していたわけだが)、東電がメルトダウンを正式に認め、保安院がこれを追認したのが5月12日と、事故後2ヵ月経ってから。

 SPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)のシミュレーション結果の公表も大幅に遅れたわけですが、これらの情報の早い公表を止めたのは誰なのか?

 「想定外」の大津波が必ずしも「想定外」だはなかった面もあるのに、それを承知の上で東電や政府、保安院が、まるで合言葉のように「想定外」という言葉を繰り返すようになったのはなぜか?

 MOX燃料使用の3号機では事故当初からプルトニウムの放出が懸念されたが、保安院や東電は記者会見で「プルトニウムは放出されにくい」との回答を繰り返すばかり。東電が原発敷地内からプルトニウムが検出されたことを発表したのは3月29日で、政府が敷地外の浪江町でのプルトニウム検出を明かしたのは9月30日。

 その他にも、作業員の被曝上限の引き上げの安全性に関わる問題や、汚染水の海への放出の責任者の不明確さなど、幾つかのテーマごとにわけて、国や東電、保安院の記者会見を追検証しています。

 その中には、マスメディアの記者会見等を受けての報道のあり方も含まれており、いち早く報じたとこころや反応が緩慢だったところ、政府発表をそのまま横流しにし、その不正確さ(乃至ウソ)が明らかになっても、自らの報道のあり方を振り返る気配は見られなかったところなどもあり、そうしたことも含めて検証するとなると、やはりマスメディアには難しく、本書の著者らのようなフリージャーナリストに頑張ってもらうしかないのでしょうか。

 今回の原発事故報道でこうしたフリージャーナリストの果たした役割は大きかったと思われますが、本書によれば、こうしたフリージャーナリストのうち、尖鋭的な一部の者を狙い撃ちにして記者会見から締め出すといったことも行われたとのことです。

 どうせ経産省の官僚筋や保安院、東電などがその本意を明かさずに政治家に上申してそうしたことが行われたのでしょうが、そういう戦術に易々と乗せられてしまうところに、政権の"青さ"を感じます。

ドキュメント テレビは原発事故をどう伝えたのか2.jpg 本書のほかに、福島原発事故の報道の在り方を検証したものとしては、メディア文化、オーディエンス研究を専門とする伊藤守氏の『ドキュメント テレビは原発事故をどう伝えたのか』(2012年3月/平凡社新書)がつい最近刊行さており、NHKおよび民放各局の事故の推移や政府発表に対する報道の対応がどうであったか、またそれらのテレビ局に出演していた所謂「専門家」と呼ばれる人たちがどのような発言をし、それに対して聴き手であるアナウンサーやキャスターがどのような反応を示したかなどが、こと細かく検証されています。

 著者はジャーナリズム論が専門でないながらも、事故報道に対する批判的な視点を織り込み、刊行されたばかりということもあって本書に対する評価も高いようですが、大体「原発推進派」の専門家を呼んでくれば、そうした事故の重大さを過小評価したコメントをすることはミエミエなわけで、その学者や専門家が何を話したかもさることながら、テレビ局がどうして事故当初、そんな人ばかりを解説者・コメンテーターとして呼んできたのか(バイアスを排除する意図からか、その「専門家」の出自については触れられていない)ということの方が、より大きな問題であるように思いました。

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日隅一雄(ひずみ・かずお=弁護士)2012年6月12日死去、49歳。
産経新聞記者から弁護士に転身。報道被害問題に取り組み、NHK番組改変問題や、 沖縄の核密約をめぐる情報公開訴訟の弁護団に加わった。東日本大震災後は東京電力や政府の記者会見に通い続けた。2011年5月に胆のうがんと宣告され、闘病しながら弁護士活動を続けていた。(朝日新聞より)

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This page contains a single entry by wada published on 2012年3月 5日 23:01.

【1710】 ◎ 大島 堅一 『原発のコスト―エネルギー転換への視点』 (2011/12 岩波新書) ★★★★☆ was the previous entry in this blog.

【1712】 ○ 広瀬 隆/明石 昇二郎 『原発の闇を暴く』 (2011/07 集英社新書) ★★★★ is the next entry in this blog.

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