【1708】 ○ 井野 博満/後藤 政志/瀬川 嘉之 『福島原発事故はなぜ起きたか (2011/06 藤原書店) ★★★★

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講演会のトーンで書かれていて分かり易い。元原発設計者が原発によるエネルギー供給の不可能性を述べている。

福島原発事故はなぜ起きたか.jpg 『福島原発事故はなぜ起きたか』 (2011/06 藤原書店)   原発を終わらせる.jpg 『原発を終わらせる (岩波新書)』(2011/07)

 本書は、福島原発事故が起きた2011年3月11日から1ヵ月余り経った4月16日に明治大学リバティホールで開催された講演会「いま原発で何が起きているのか―東京電力福島第一原子力発電所事故と原発立国のこれから」(ちきゅう座・現代史研究会主催)及び4月26日に町田市民フォーラムで開催されたシンポジュウム「いま、福島原発で何がおきているのか?」(原発事故を考える町田市民の会主催)の講演と質疑応答を再構成したものです。

井野博満.jpg 井野博満・東京大学名誉教授(金属材料学)を編者として3人の筆者から成り、第1章「福島原発事故の原因と結果」では、井野氏が福島原発事故について科学的・専門的に解説するとともに、事故の収束が見えない現状から、今後どのような経過が考えられるのか、詳説しています。

外国人記者向けの会見で話す井野博満・東大名誉教授(右)と元原子炉プラント設計者の後藤政志氏(asahi.com)

 第2章「福島原発で何が起こったのか」では、元原発設計技術者である後藤政志氏が、原子炉格納容器設計に関わった経験をもとに、反省の意も込めて、原発の欠陥と問題点を、やはり詳しく解説しています。

 第3章「放射線被曝の考え方」では、高木学校医療被ばく問題研究グループの瀬川嘉之氏が、放射能被曝について科学的に解説するとともに、東日本及び関東を含む200km圏内の人が、想定される放射能汚染被害に対してどのように対応すべきかを説いています。

 かなり専門的に突っ込んだ部分もありますが、これらの後に、シンポジウムでの一般市民と3氏の間での質疑応答が収録されていて、基本的な質問や不安に分かり易く答える形になっています。

 また、最後に「事態の進展」として、井野氏が、事故後3ヵ月を経て、講演では触れられなかった新たな進展に触れています。

 更に巻末には、井野氏が代表を務める「柏崎刈羽原原発の閉鎖を訴える科学者・技術者の会」が「『福島原発震災』をどう見るか―私たちの見解」として2011年3月23日、4月7日、5月19似に発表したレポート及び新潟県知事、柏崎市長らに充てた要請書、並びに福島原発事故及び放射能汚染の経緯を時系列で追った表が付されています。

 講演会やシンポジュウムがベースになっているということで、かっちりした科学的な内容ですが、講演会のトーンで書かれているため分かり易く、話が専門の科学・技術分野に及ぶ箇所は、図解や写真を多用するなどして読者の理解を助けるように配慮されていて(これらも、講演会で一般市民に解説するために用いたものであると思われる)、震災後3ヵ月余りでの刊行としては、よく纏められているように思いました。

 個人的には、元原発設計技術者である後藤氏が、原子炉格納容器をベントしなければならない事態になった時のためにフィルターをつけるべきだったのに(フランスなどではそうしている)その辺の議論が曖昧になって結局つけなかったために、大量の放射能を拡散させることになったことを悔やむとともに、絶対に安全だと言いながら、こうした放出弁を設けていることの矛盾を指摘しているのが印象的でした。

 更には、質疑応答の中で、「今後、地震が来るたびに、仮に壊れていないとしても今後の安全を確認するために年単位で止まることを原子力プラントは覚悟しなければいけないということです。そうすると、本当に経済的なのか、エネルギー源として適切なのかどうかと思っているんです。地震国日本においては、原発はエネルギー供給することができないという結論に達したと私は思っています」と述べているのも印象に残りました。

 因みに、地震学者・石橋克彦氏を編者とした14人の科学者・技術者の小論文集『原発を終わらせる』('11年7月)では、後藤政志氏が、第1章の「福島第一原発事故」の概要解説のうち「事故はいつまで続くのか」のパートを執筆し、井野博満氏の方が、第2章「原発の何が問題かー科学・技術的側面から」で「原発は先の見えない技術」と題して、自分の専門科学分野である「圧力容器の照射脆化」の問題、高レベル廃棄物の地層処分(ガラス固化体)における「オーバーパックの耐食性」の問題を解説していますので(本書と総論・各論の分担が入れ換わっている)、こちらも併せて読まれるとよいかと思います。

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This page contains a single entry by wada published on 2012年3月 4日 23:57.

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