【1704】 ○ 小出 裕章 『隠される原子力・核の真実―原子力の専門家が原発に反対するわけ』 (2011/01 創史社) ★★★★

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原子力学術界における反原発の旗手が福島原発事故の直前に著した本。原発の危険性を説いて分かり易い。

隠される原子力・核の真実.jpg 九電やらせ・玄海原発プルサーマル公開討論会('05年12月25日)質問者は実は東電社員ばかり
隠される原子力・核の真実―原子力の専門家が原発に反対するわけ』(2011/01 創史社)

 原子力の平和利用を志して原子力研究に身を投じながらも、原子力を学ぶことでその危険性に気づき、長年に渡ってそのことを訴え続け、また、放射線被害を受ける側に立って活動を続けてきた、今や原子力学術界における「反原発」の旗手的存在である著者ですが、東日本大震災による福島第一原発の事故前にも関連の多くの著作があり、本書は東日本大震災の数ヵ月前に刊行されたものです。

 被曝の影響と恐ろしさ(とりわけ、看過されがちな低線量被曝の危険性について)、核によってもたらされる環境破壊と生命の危険、日本が進めている核開発の全体像、原子力発電自体の危険性、地球温暖化説が原子力に悪用されたということ、原発が死の灰を生み続けるということ、実際には原子力から簡単に足を洗えるということ、再処理工場が膨大な危険を抱えていることなどを解説し、最後に、エネルギーの消費量をこれ以上増やしても、人類は寿命が伸びるわけでもなければ幸せになるわけでもなく、エネルギー消費型の社会を一刻も早く改めるべきだと訴えています。

 これだけの内容で160ページ弱とコンパクトに纏まっていて、中学生・高校生にも読めるような分かり易さ。一部に解説がやや専門的な内容に踏み込む部分もありますが、そうした箇所はグラフや図表などを用いていて、一般読者の理解の助けとなるよう配慮されており、そうした中、チェルノブイリ原発事故による汚染の広がりを福島原発に当て嵌め、その放射能汚染域を日本地図上で示した図はあまりに「予言」的です。

 プルトニウム再利用のための核燃料リサイクル計画は杜撰を極めており、高速増殖炉「もんじゅ」は試験運転時にナトリウム漏れ事故を起こし('95年)、いまだに1キロワット時の発電すらしておらず、すでに1兆円の金をドブに捨てているとのこと、高速増殖炉の利用は追えば追うほど遠ざかる「夢」となっており、それがすぐにでも出来ると今でも言い続ける学者らがいるのに対し、著者は「正直に言えば、こういう人たちは全員刑務所に入れるべきだと私は思います」とまで書いています。

 原発において電力供給に利用される熱エネルギーは3分の1で、残りの3分の1は海に放出され、しかも、原発を動かし続けるために莫大なエネルギーが費やされていて、多くのリスクも伴う―では一体何のために原発を造り続けるのか? 枯渇されると予測される石油はその「限界」とされる年数が年ごとなぜか「延長」されているし、そもそも日本の電力は不足しているのか? そうした国の原発推進政策に多くの疑問を投げかけ、また、警鐘を鳴らしています。

 著者の所属は「京都大学原子力研究所」。定年間近にして「助教」とは、かつての反公害運動の宇井純・東大「助手」を想起させますが、まだ「京大」だから在籍できるのであって、「東大」だったらとっくに辞めさせられていたと、著者自身が語っていていたという話も聞いたことがあります。

小出裕章.bmp大橋弘忠.bmp 九州電力玄海原子力発電所(佐賀県玄海町)3号機のプルサーマル発電計画について、佐賀県が'05年12月に公開討論会を主催した際、九電が動員した社員や関連会社員らが参加者全体の半数近くも出席していて、導入推進側に有利な"やらせ質問"をするととともに、参加者アンケートにも"積極"回答していたことが明らかになったのは、東日本大震災後の同原発の運転再開を巡る九州電力の"やらせメール事件"が明るみに出た直後の昨年('11年)7月のこと(5年以上前の全国で最初に行われたこのプルサーマル公聴会の時から"やらせ"は常態化していたわけだ)、その公聴会においてプルサーマル原発の危険性を訴えて頑張っていたのが著者で、一方の、「反対派は地震が起きたら危ないと言うが、チェルノブイリのようなことは起こるはずがない。安全ということを確かめられている」と言って小出助教をせせら笑った東京大学の大橋弘忠教授は、福島原発の事故後はマスコミには一切登場していません。

九電やらせ・玄海原発プルサーマル公開討論会 小出裕章・京大助教(助手) vs. 大橋弘忠・東大教授(平成17年12月25日)

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