【1702】 ◎ 広瀬 隆 『東京に原発を! (1986/08 集英社文庫) ★★★★☆

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「福島原発事故」が実際に起こってみると、まさに予言的な本だったと認めざるを得ない。

東京に原発を!.jpg 『東京に原発を! (集英社文庫)』['86年]

 単行本(同タイトル)は、'79年の「スリーマイル島原発事故」の発生を受けて'81年にJICC出版局から刊行されていますが、本書は、その後の'86年4月に発生した「チェルノブイリ原発事故」を受けて、単行本を大幅に加筆修正し、同年8月に集英社文庫として刊行されたものです(今から25年前か)。

 20年前に、著者が『赤い楯―ロスチャイルドの謎(上・下)』('91年/集英社)を発表した頃、渋谷のジァン・ジァンに著者自身によるトークショーを聞きに行って、やや過剰な「陰謀説」的傾向を感じたのですが、その印象もあってか、著者の他の著作にも、やや「怖がらせ」系の印象を抱いてしまいました。

 しかしながら、振りかえってみれば本書では、原発事故は必ず起きるとし、日本ではそれが大地震と共に訪れるということをはっきり予言していて、実際に東日本大震災による「福島原発事故」が起こってみると、まさに予言的な本だったと認めざるを得ません。

 原子力発電のプロセスなどが図解で分かり易く解説されていて、そうした基本知識を得るうえでも古さを感じさせず(40年間同じ原子炉を使っているわけだから変わり様がないか)、併せて、水循環技術や圧力調整技術、放射能抑制の仕組みの脆弱さを指摘している箇所は、これもまた、その危険性が遂に現実のものとなったとの思いに駆られます(核燃料棒の隙間って3ミリしかないんだあ)。

 原子力発電所そのものの危険性ばかりでなく、放射能の人体への影響や使用済み核燃料の危険性についての説明も詳しく(むしろ、こっちの方が怖いか)、となると、青森県下北半島の再処理工場が大震災に見舞われた際にどうなるかということが心配になります。

 最終的には、そこに保管されている使用済み核燃料もどこかへ廃棄することになり、但し、その廃棄先は宇宙がいいか、地底がいいか、海底がいいかと諸論あるようですがベストなものはない―こうなると、捨て場所が無いのに何故こんなもの作ってしまったのかという気持ちになります。

 「原発安全神話」が作られたものであることは、今や周知の事実ですが、著者はこの頃から、本当に原発が安全ならば、東京に原発を作れば最も効率がいいはずであると言って(原子力発電においては、発生する熱エネルギーの3分の2は、利用されることなく海に放出されているとのこと、更に、福島から東京に送電するために莫大な費用がかかっているとのこと)、それが反語的なタイトルとなっているわけです。

 事実に裏付けられたぞっとさせられる記述が多々ある一方で、やや「怖がらせ」系のニュアンスが一部見受けられますが、この問題に関しては、それぐらい「怖がった」方がいいのかもしれません。

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