【1698】 ◎ ウィリアム・A・コーン (橋本碩也:訳) 『ドラッカー先生のリーダーシップ論 (2010/12 武田ランダムハウスジャパン) ★★★★☆

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ドラッカーによって書かれることの無かった"幻のリーダーシップ論"を一番弟子が再構築。

1ドラッカー先生のリーダーシップ論.pngドラッカー先生のリーダーシップ論 帯.jpg 『ドラッカー先生のリーダーシップ論』(2010/12 武田ランダムハウスジャパン)

 ドラッカーの教え子、友人、弟子として30年間に渡りその薫陶を受けた著者が、彼の著作、講義、対話をもとに、ドラッカーがもしリーダーシップ論を書いていれば、このような内容になったのではないかとの想定のもとに書いた本で、ピーター・ドラッカー財団(リーダー・トゥ・リーダー・インスティチュート)のお墨付きも得ている本。

 実際ドラッカーは、「リーダーシップはこの上なく大切であり、これに代わり得るものはない」「マネジメントはリーダーシップである」として、早くからリーダーシップに言及していたにも関わらず、彼の著作にはリーダーシップにテーマを絞って書かれた単独の著作はありません(『チェンジ・リーダーの条件』('00年/ダイヤモンド社)という本があるが、あれは上田惇生氏が、ドラッカーの過去の著作からマネジメントに対する彼の考えを抜き出して編訳したエッセンス版)。

 これは、ドラッカーが、先の言葉にもあるように、マネジメントとリーダーシップを近しいものであると永らく考えていたためで、リーダーシップをマネジメントと切り離して論じるべきであると考えるようになったのは晩年のことであるためであり、但し、リーダーシップに関する単著を著す前に亡くなってしまったということのようです。

ドラッカー カリスマ性.jpg 本書を読むと、その他にも、「リーダーシップは学んで身につけられる」との結論に至ったのも晩年のことで、それまで彼は"素質論"だったということが分かり、"カリスマ"に対してもかつては忌避していたのが(ヒットラーが政権を取った数日後に祖国を離れ渡英したことに符号する)、晩年になって、中立的な立場になるなど、いろいろリーダーシップに対する考えが変遷しているのが窺え、興味深く重いました(手近な入門書の多くは、最初からリーダーシップに関する彼の考えが定まっていたかのように書かれているものもあるなあ)。

 著者自身が自らの調査に基づき、また、ドラッカーの著作に立ちもどりながら編み出したリーダーシップの8項目の原則を掲げていますが、それらは、①どこまでも誠実さを貫く、②仕事の内容をよく知る、③期待することを言葉で表す、④並々ならぬ努力をもって仕事に打ち込んでいることを示す、⑤よい結果を期待する、⑥部下に十分配慮する、⑦私利よりもミッションを優先させる、⑧自らが先頭に立つ、となっており、ドラッカーに見せたところ、賛同の意を示したとのことです(とりわけ①の誠実さということに対して)。

 著者にはこれまでにも、ドラッカーのマネジメント論や、そのマネジメント論に基づくリーダーシップ論についての著作があり、本書は『ドラッカー先生の授業』('08年/武田ランダムハウスジャパン)の続編と言えるもので、内容は理論的に高度であるとは言え、比較的新しい事例なども織り込まれていて、読み易いものとなっています。

 著者自身がドラッカー研究を通じて纏めた、効果的なリーダーシップのドラッカー・モデルというべきものが冒頭にあり、これは、訳者あとがきで橋本碩也氏が再度、ドラッカーのリーダーシップ論の真髄として5点に纏めていますが、それらは次の通りです。
 ①リーダーはすべての基盤となる戦略を自分自身で策定すること
 ②リーダーには、誠実さと倫理が備わっていることが不可欠
 ③軍隊で教えるリーダーシップをモデルとすること
 ④モチベーションについての心理的な原則を理解し、応用すること
 ⑤マーケティングの考え方を自分自身のリーダーシップに採り入れること

 本書は、この5点を章ごとに纏めて解説する形をとっていますが、④に「軍隊で教えるリーダーシップをモデルとすること」とあるのは、実は著者は、ドラッカー一番弟子であるとともに、かつて空軍大将にまで上り詰めた人であり、ドラッカーとの会話を通じて、ドラッカーが軍隊で教えるリーダーシップを高く評価していたことを知ったことによるもので、⑤にの「マーケティングの考え方を自分自身のリーダーシップに採り入れること」とあるのと共に、興味深く思いました。

 その他にも、「リーダーシップの7つの大罪」「従業員はコストではなくボランティアとみなす」などといった興味深い記述があり、ケーススタディとしてドラッカーが大学での講義で教えた事例なども網羅されていて、通り一遍のドラッカー入門書とは一味違った、読み応えのある本でした。

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