【1690】 △ 冷泉 彰彦 『「上から目線」の時代 (2012/01 講談社現代新書) ★★★

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着眼点は興味深かったが、事例が強引で、しっくりこないものが多かった。

「上から目線」の時代.jpg 『「上から目線」の時代 (講談社現代新書)』 勝間=ひろゆき対談.jpg「勝間=ひろゆき対談」

 "あの人は「上から目線」だからやり辛い"といった「上から目線」を過剰に意識する現象について、そもそも「上から目線」とは何なのか、「上から目線」という言葉がいつ頃から使われるようになったのか遡ることから考え始め、「上から目線」を過剰意識することの根底にある、日本語で会話する際の独特の当事者間の位置関係や枠組みを考察し、更には、日本文化の底流に流れるものを掘り起こそうと試みた本―但し、個人的には、日本語論、日本文化論というよりも、主にコミュニケーション論として読みました。

 「上から目線」ということがいつ頃から使われるようになったかを政権トップの発言に対する国民の反応から見て行くと、福田康夫首相や麻生太郎首相の頃かららしいですが、このように「上から目線」について「1対多」と「1対1」の両方のコミュニケーション・ケースを扱っていて、「1対多」の方が「首相vs.国民」になっているのが、読み物としては面白けれど、かなり、著者のバイアスが入らざるを得ないものになっているように思いました(一時の首相の言動から、日本文化の底流に流れるものを掘り起こすというのは、普遍性が弱いように思う)。

 一方、「1対1」のコミュニケーションを中心に論じている部分はなるほどと思わされる部分もあり、会話のテンプレートのようなものが、"共通価値観の消滅"により無くなってしまったのかどうかはともかく(そんなに簡単に消滅するかな)、日本語の会話というものが、構造自体に上下関の枠組みがデフォルトとして設定されていて、日本語で会話すると、上下関係が自然に発生してしまうという着眼点は興味深く、確かにそうかもと思いました。

 但し、大きな会社からベンチャー企業に転職してきた人が「僕の会社では」ということを繰り返し言うのが嫌われる(こういうの、「出羽守(ではのかみ)」という)というのは、そうした上下関係が生じていることへの自意識がないからであり、これはあまりに単純な話。

 そんな解説も要さないような話があるかと思うと、一方で、BS-Japanの「デキビジ」での勝間和代氏と元「2ちゃんねる」管理人のひろゆき(西村博之)氏の対談が噛みあわなかったことが、「上から目線」の事例として出てきたりして、勝間氏がひろゆき氏の発言に「上から目線」を感じたのではないか、とのことですが、これ、ちょっと違うんじゃないかなあと。

 著者は両者の「会話」の一部を取り上げ、その食い違いを指摘していますが、「議論」全体としては、勝間氏が「起業しなければ人では無い」的な前提で話していること自体が価値観の押しつけであり(これこそ著者の言うところの「上から目線」)、それを揶揄するというより、その前提がおかしいのではないかと、ひろゆき氏は言っているだけのように思え(意図的に揶揄することで、相手の土俵に乗せられないようにしているとも言えるが)、議論の前提に異議申すことは、頓珍漢なイチャモンでなければ、必ずしも「上から目線」とは言えないのではないかと(「議論」と「会話」が一緒くたになっている)。

そこまで言うか.jpg 「勝間=ひろゆき対談」については、根本的に両者の考え方、と言うより、対談に臨む姿勢が食い違っているように思いましたが、この対談をとり持ったのは、実は、後から2人に割り込んだフリをしている堀江貴文氏かなあ。その後、3人で「仲直り」対談をしたりして(これをネタに本まで出したりして)、共通のプラットフォームが出来あがってしまうと、途端に対談内容がつまらなくなるというのが、外野からみた印象でした(勝間和代氏と香山リカ氏の関係も同じ。ここで言う"共通のプラットフォーム"とは、"世間の注目を集める"こと、つまり、当事者双方にとっての経済合理性か)。

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This page contains a single entry by wada published on 2012年2月17日 08:18.

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