【1686】 ◎ 楠木 新 『人事部は見ている。 (2011/06 日経プレミアシリーズ) ★★★★☆

「●人事マネジメント全般」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1697】 楠田 祐/大島 由起子 『破壊と創造の人事
「●新人・若手社員向け」の インデックッスへ 「●日経プレミアシリーズ」の インデックッスへ

現役の人事パーソンにとっても示唆に富むフレーズに満ちている。

人事部は見ている5.JPG人事部は見ている.jpg人事部は見ている。 (日経プレミアシリーズ)

 Amazon.com のレビューではそれほど評価が高くなかったのですが、読んでみたらなかなかよく、また、人事に関係する仕事をしている人の間では、「意外と優れもの」だったとの声も聴くことがあった本。
 基本的には一般ビジネスパーソン向けの体裁であるため、「出世の方程式」のようなものを期待して読んでしまった人もいたのかなあ。

 本書プロローグによれば、ビジネスパーソンに「人事」の仕事の実態を理解してもらい、自分自身のキャリアを考える際に役立ててもらうのが本書の狙いであるとのことで、帯には「企業で人事業務に携わった筆者が包み隠さず語ります」とありますが、実際、自らの体験や多くの人事担当者へのインタビューがベースとなっているため、読み物のように楽しく読めて、かつ、人事の"実態"を分かりよく解説しているように思いました。

 外から見た人事部と実際に人事部の中で行われていることの違いや、人事部員がどう思って仕事しているかなどは、キャリアの入り口にあり、人事の仕事を希望している人や、今は別部署で働いているけrども、将来は人事の仕事をやってみたいと考えている人には、大いに参考になると思われます。

 同じ人事部員でも、担当する業務によって性格傾向が異なることを著者なりに分析していて、例えば、異動や考課を担当する人事部員は、コミュニケーション能力とバランス感覚に優れた人が求められるといったように、それがそのまま、適性要件として示されているのが興味深いです。

 「公平な人事異動をしても7割は不満を持つ」「人は自分のことを3割高く評価している」といのは、まさに"実態"でしょう。「採用を左右するのは"偶然"や"相性"」であるというのも、経験者ならば思わず頷きたくなるのでは。

 「人事部の機能は担当する社員数に規定される」とし、人事部員にとって重要とされる能力が、企業規模によってその要素や重要度が異なってくることを統計で示すとともに、「社員と直接つながることがいいのか」を考察し、そのことに違和感を持つ人事部員も少なくないのではないかとしています。

 「目標管理だけでは真の評価はできない」とし、コミュニケーション・ツールとして割り切るべきだとの考えにも納得。評価されるポイントは職場内での評判だったりもするとして、様々な例を挙げて、人事部から見た「出世の構造」を解き明かしています。

 「人事は裁量権が残されている仕事だ」とし、「個別案件こそが人事部の存在意義」であるとしながらも、特定のマネジャーや部員の「正義の味方になるとしっぺ返しを受ける」というのも、身に覚えのある人事パーソンはいるのでは。

 最後に、現在、人事部は曲がり角に立っているとして、雇用リスクや働き方の多様化とどのように向かい合っていけばよいかを説くとともに、「社員の人生は社員が決める」ものであり、会社(人事)側も、社員のライフサイクルに応じたよりきめ細かな対応が求められるとしています。

 最初は、一般ビジネスパーソンに向けた「人事部の仕事」の入門書のように思えたのですが、読み終えて振り返ってみれば、現役の人事パーソンにとっても示唆に富むフレーズに満ちており、たいへんコストパフォーマンの良い本でした。
 人事部にいる人にとっては、"励ましの書"という感じかな。若手、ベテランを問わず、お奨めです(「人事部の仕事」のストレートな入門書としては、大南幸弘・稲山耕司・石原正雄・大南弘巳 著『人事部 改訂2版(図解でわかる部門の仕事)』('10年/本能率協会マネジメントセンター)がお奨めです)。


《読書MEMO》
●人事部員のキャラクターの違い(34p~42p)
・異動・考課を担当...コミュニケーション能力とバランス感覚に優れる(姿勢が真摯で誰に対しても公平)
・労働条件を担当...過去のいきさつや実際の運用事例も把握する必要(一人前になるには一定の時間を要す)
・労働組合との団体交渉担当...かけひきや揉め事が嫌いではないタイプ。
・人事制度の企画・立案担当...概念的な嗜好を好む傾向
・勤務管理・給与管理担当...縁の下の力持ち
・採用担当...明るくて感じのいい人(採用担当者の魅力が、応募者を惹きつける要素になるから)
●そもそも、人事評価は主観的であり感情面が大きくかかわってくる。求めるべきは、客観性や公平性ではなく、評価される社員の「うん、そうだ」という納得なのだ。
●一定の人数を超えると、直接個々の社員を知ることはできないので、所属長を通した伝聞情報で個々の社員を把握する。
●人事部の役割は、所属長をサポートすることであり、管理を代行することではない。
●どの職場を経験して、どのポストに就いているかが、現在の評価基準になり、将来の昇格の可能性を示唆する。
●どの職層においても、直接の上司との関係が基本的に重要だ。その上司の得意、不得意を観察すること。そのうえで、定期的にさまざまな報告をすること。
●人事権は、個人や役職者の権利ではなくて、経営権の一つなのだ。だから、人事権を自分の権限であると錯覚して、部下や後輩に威張り散らしたり、彼らの人生をコントロールできるなどとは決して思ってはいけない。

About this Entry

Categories

Pages

Powered by Movable Type 6.1.1