【1678】 ○ 山下 徹 『貢献力の経営(マネジメント)―押し寄せる課題に皆で立ち向かう仕組み』 (2011/05 ダイヤモンド社) ★★★★

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コミュニティの変化と経営環境の変化をパラレルに論じ、『貢献力』による自社の改革事例を社会の変化に敷衍化。

貢献力の経営.jpg 『貢献力の経営(マネジメント)』(2011/05 ダイヤモンド社)

 他者への「貢献」を通して社会の一員として認められたいという欲求は人間本来の欲求であり、集団主義的な思考や行動様式をとる傾向にある日本人の場合、こうした欲求を特性的に備えていると考えられる一方で、その「貢献」の対象が、特定のグループやコミュニティに限定されがちであるというのもまた、日本人の特性なのかも知れません。

 より広い視野に立ち、そうした「貢献」欲求を上手く活かせば、それが社会や企業の活性化に繋がるのではないか―NTTデータ社長である著者は、本書冒頭において、「今、まさに正念場を迎えている日本社会、そして企業経営において、最も必要なものは『貢献力』ではないだろうか」と述べています。

 そう考えるようになった背景として、近年、日本で起きている『2つの大きな変化』を挙げており、その1つは、"個人"間での「既存のコミュニティ(地域や職場など)の衰退」と「新しいコミュニティ(ツイッター、ブログ、SNSなど)の台頭」という『コミュニティにおける変化』であり、もう1つは、企業における、「グローバル化」や「働く意味」の変化といった『経営環境の変化』であるとのことです。

「マズローの欲求5段階説」と「貢献」の欲求.jpg こうした、ますます複雑化・多様化する社会や企業において、多くの人や組織が直面している「孤立」や「セクショナリズム」といった問題に解決するには、「個々の知を結集させ、皆で立ち向かう仕組み」が求められ、個人や個々の組織が独力で乗り越えられない壁に直面した時は、従来の「(チーム内)チームワーク」という概念を超えて、あらゆる知恵を総動員する必要があるのではないか、一人ひとりがコミュニティに貢献し、全員が力を合わせる時代が今ではないか―というのが、著者の主張です。

 著者は、「マズローの5段階欲求モデル」の最上位にある「自己実現の欲求」とは、「役に立っていたい、意義を感じたい」欲求ではないかとし、その下位にある「承認(尊厳)の欲求」の充足が「チームや組織への貢献」で得られるものであるならば、「自己実現の欲求」の充足は各種コミュニティへの貢献により得られるものであり、こうしたチーム外コミュニティへの貢献に達成感を求める人は今後増えるのではないかとしています。

 企業もそうした貢献を支援し、外部との交流を通して得た知見を会社に還元してもらうことで、社員も会社も時代の変化に対応していくべきであるとのことを、著者は、自社における社内SNSが、組織や役割を超えた絆づくりに一役買った成功例などを挙げて解説しています。

 更に、こうした社員によるボトムアップ型の貢献活動の事例と併せて、企業による「社員が『貢献力』を向上させるためのトップダウン型の仕掛け」が紹介されており、 具体例として、自社の人事評価制度を業績重視から行動重視へとシフトし、人事等級のグレード基準においては、「行動ガイドライン」から抽出した「挑戦」「連携・貢献」「構想・実現」の3つの要素に「専門性(プロフェッショナリティ)」を加えた4つの要素で行動の評価を行うようにしたことなどが紹介されています。

 また、ボトムアップ型の貢献活動におけるキーワードとして〈独創〉〈プロフェッショナル〉〈多様性〉の3つを掲げていますが、これをトップダウンによる貢献活動にも当て嵌めて、それぞれ「仕事の見える化で課題を共有し、常に進化する職場に」、「次世代を担う人材育成。イノベーションをカタチに」、「社員も、組織も、会社も相互に貢献、支え合う社会に」という考えのもと、自社内での事例が紹介されています。

 最後に3つの論点として、「社会に果たすべき企業の役割」を再考し、「セクショナリズムの打破」によって競争から協創への転換を促すことを呼びかけるとともに、「『貢献』は人間の自然な欲求」であるとして締め括っています。

 NTTデータという会社の"広報"的要素も含んだ本であるともとれ、中にはこんなに上手くいくのかなとか、巨大IT企業であるから可能なんだよなとか思わされる部分も無きにしもあらずですが、自社の改革事例を社会の変化に敷衍化させ、更に、コミュニティの変化と経営環境の変化をパラレルに論じることで、より広い視野に立った提言内容となっているように思いました。

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