【1677】 ◎ マーカス・バッキンガム (加賀山卓朗:訳) 『最高のリーダー、マネジャーがいつも考えているたったひとつのこと (2006/01 日本経済新聞社) ★★★★★

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「●マネジメント」の インデックッスへ ○経営思想家トップ50 ランクイン(マーカス・バッキンガム)

マネジャー論(育成本能)、リーダーシップ論(未来志向)としても、啓蒙書としても上質。

The One Thing You Need to Know: About Great Managing, Great Leading and Sustained Individual Success.jpg最高のリーダー2.jpg 最高のリーダー.jpg マーカス・バッキンガム(Marcus Buckingham).jpg マーカス・バッキンガム     
The One Thing You Need to Know: ... About Great Managing, Great Leading, and Sustained Individual Success (English Edition)最高のリーダー、マネジャーがいつも考えているたったひとつのこと』('06年/日本経済新聞社)
Marcus Buckingham
Marcus Buckingham2.jpgMarcus Buckingham.jpg こうした「最高の」とか「たったひとつの」のとかをタイトルに冠した最近の本は、中身を読んでも、その「最高」や「たったひとつの」が当たり前過ぎてしょうも無かったり、或いは沢山のことを取り上げ過ぎていて結局は何が「たったひとつ」なのかよく分からなかったりすることが多いのですが、少し以前('06年)に刊行された本書は、至極まともなマネジャー論、リーダーシップ論であり、啓蒙書です。

 原題は"The One Thing You Need To Know...About Great Managing, Great Leading, and Sustained Individual Success"(2005)で、ギャラップの調査員だった著者(Marcus Buckingham(左写真)、現在は作家兼コンサルタントとして執筆・講演活動を行っている)が、多くのマネジャー、リーダー、仕事面での成功者へのインタビューを通して得た知見に基づいて、優れたマネジャー、優れたリーダー、個人として継続して成功を収めている人に共通する特性を、それぞれに端的に絞り込んで示しており、まさにタイトル通りの内容となっています。

 まずマネジャーとリーダーの違いについての考察から入って、ドラッカーら先人達のマネジメント論やリーダーシップ論を引きつつ、すぐれたマネジャーは部下の成功を手助けせずにはいられない「教育本能」を持っていることを示しています。

ウォルグリーン1.jpg ケーススタディとして挙げている、「ウォルグリーン」(Walgreens、米国最大のドラッグストア・チェーン)で、販売員として最高成績を収めている店員の話が大変面白い。この店員はインド人の女性で、昼間コンピュータの専門学校に通いながら、夜間零時過ぎから朝まで働いていて、要するに夜間パートなのですが、その彼女がどうして多くの店員の中でトップの成績を収めることができたのか、そこに、上司である日系人店長の、彼女の能力を最大限に引き出し、それを業績に結び付ける創意と工夫があることが分かり、優れたマネジャーは「部下一人ひとりの個性」に注目し、その個性が活かせるように、彼らの役割や責任の方を作り変えるとしています(これを「チェスをする」という表現をしている)。

鉱山事故.jpg最高のリーダー、マネジャーがいつも 事例.jpg 一方、優れたリーダーは、今どこに向かっているのかを明確にすることで、皆が抱く未来への不安を取り除くとしていて、ここでは、2002年に起きたペンシルバニア州ケイクリーク鉱山事故で、坑内に閉じ込められた作業員らの生きる望みを繋いだ男性のケーススタディが出てきますが('10年のチリの鉱山で落盤事故で33人が奇跡の生還を遂げた出来事を彷彿させる)、これも凄く説得力があります。

 そのケーススタディを通して言えることは、優れたリーダーとは、「部下達に共通する不安を取り除いて」今とれる行動は何かを明らかにすることで「未来を描く」ことができる人であるということです。不安は将来が不明確であることから生じるものであり、そのために、人々が一番明確さを求めているのはどこかを探ることが、リーダーの最初の役割ということになります。

 優れたマネジャーが「部下一人ひとりの個性」に注目するのに対し、優れたリーダーは「部下達に共通する不安」に注目する、優れたマネジャーは、個人の特色を発見し活用するのに対し、優れたリーダーは、将来の不安を取り除いてより良い未来に向けて皆を一致団結させる、優れたマネジャーは会社の指示や業績よりも「人間」そのものに関心があり、一方、優れたリーダーは「未来」志向であり、現実を冷静に見極めながらも、その未来に対しては楽観的な姿勢を失わない―こうした対比が(図表など一枚も用いていないが)スンナリ飲み込める内容となっています。

 著者自身は、リーダー「素質」論者のようですが、一方で、生まれつきのリーダーはいないという考えで(本書では遺伝学や脳科学的な考察もあって、これもトンデモ本にあるようないい加減なものではなく、知的関心をそそられるもの)、より良きリーダーとなるには、情熱的でも魅力的でなくてもいい、弁舌に長けてなくてもいい、ではより良きリーダーとなるにはどのようなことに関心を払い努力すればよいのかということについても書かれています。

 マネジャー論、リーダーシップ論として纏まっており、啓蒙書としても上質、且つ面白く読める本だと思います。

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