【1664】 ○ 野川 忍 『Q&A震災と雇用問題 (2011/06 商事法務) ★★★★

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震災関連のQ&A集。労基法・労災法関連はよく網羅されている。実用書、参考書としてはお奨め。

Q&A震災と雇用問題 野川.jpg 『Q&A 震災と雇用問題』(2011/06 商事法務)

 東日本大震災の発生を受けて、労働者と企業のそれぞれが震災時に直面する雇用上の問題の解決策をQ&A形式で解説した「緊急出版」本ですが、判例解説等の第一人者によるものだけに、しっかりした、かつ分かりやすい内容です。

 Q&Aは全部で100項目あり、震災関連の各種給付特例や、今回の震災で企業が直面した特徴的な問題を紹介・解説するとともに、派生する給料・休業手当、解雇、不利益処分、リストラ、時間外・休日労働、自宅待機命令、有給休暇取得などの問題、労働災害の問題、震災後の事業継続と制度の導入・変更などを扱っています。

 主に労働基準法に関連する問題ということになりますが、労働災害についても15問のQ&Aが設けられており、震災後に刊行された同種の実務書の中でも、労基法・労災法関連分野に関しては、かなり網羅されている方だと思われます。

 労基法関連の諸問題については、法律ではどこまでが制限されており、どこまでが許容されるかを示しながらも、「可能な限り、労使の対等な話し合いによって事態を切り抜ける」のが望ましいという考え方がベースになっていることに共感しました。

 労災法関連では(とりわけ当該案件が「通勤災害」「業務災害」に該当するかどうかということに関して)、通常ならば法律の考え方を説明するために無理やり作ったように思えるような設問事例が、今回のような震災を想定した場合には、実際にそのようなケースがあり得るように思われ、現実感を持って読むことができました。

 例えば、「出張先の仙台市内で仕事の打ち合わせを終えて、帰りの新幹線を待つ間、改札内の書店で趣味の雑誌を立ち読みしていたところ」地震が発生し、「体のバランスを崩して書棚に頭をぶつけて全治2週間のケガをした」というような場合、労災保険が適用される可能性はあるかとか、かなりマニアックな質問と言えばマニアック、回答の方も、原則として労災とは認められないが、すでに新幹線の改札内に来ていて、「新幹線が予約されていて、ホームで待っている時間もわずかであったという場合」は、出張に伴う通常の行動であると考えられ、労災が認められる可能性もあると(ナルホドね。改札内の書店なら"中断中"には該当せずOKなのか。自由席飛び乗りだとダメなのかなあ)。

 「実用書」ではあるものの、全体を通して読むことで、法律の趣旨や考え方というものを再確認することができ、そうした意味では「参考書」としても読めるのではないかと、個人的には思いました。

 タイトルに「雇用問題」と銘打っているのは、「あとがきに代えて」の中で、今回の震災のような大災害の可能性も雇用政策に織り込むべきだという提案がなされていることによるものでしょう。

 こうした大災害の場合、企業における従来の長期雇用保護システムは機能せず、実際に今回は一挙に大量の失業者が出ることになったわけですが、「それまで就労していた企業固有のキャリアしか身につけていなければ、就業転換をスムーズに進めることができない」としています。

 そのため、「労働者が速やかに転職先を見つけることができるような普遍的職業能力を普段から身に着けることを促進・助成すること、および転職市場の拡充、そして不安定雇用に定着してしまわないように常にキャリアアップの道を開いておくこと」などが提案されていますが、もっともであると思いました。

 だだし、実質「あとがき」の中で述べられているだけで、提案の具体的な展開については「次の機会に記述したい」とのことで、本書自体は、「実用書」の域を出るものではないでしょう(「実用書」「参考書」としてはお奨めです)。

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