【1661】 △ 佐々木 政幸 『不祥事でバッシングされる会社にはワケがある (2009/01 洋泉社新書y) ★★☆

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本を読んでいるというよりセミナーを聴いている感じ。内部統制の概念説明が中途半端で、対応策は具体性を欠く。

不祥事でバッシングされる会社にはワケがある5.JPG不祥事でバッシングされる会社にはワケがある.jpg 『不祥事でバッシングされる会社にはワケがある (新書y)

 企業不祥事と言うのは絶えないもので、昨年('11年)で言えば、東日本大震災の後の原発の安全性論議を巡る九州電力のやらせメール問題、オリンパスのバブル崩壊時に生じた巨額損失の隠ぺい問題、大王製紙の前会長による子会社からの巨額借入事件あたりが話題の中心だったでしょうか。読売巨人軍の元球団代表兼GM・清武英利と渡辺恒雄球団会長らの泥仕合なども企業不祥事に入るのでしょうか。

 個人的には、読売の内輪もめなどはどうでもいいのですが、九州電力のやらせメール問題はヒド過ぎると思われ、過去に何度もやらせシンポジウムが行われていて(他の電力会社も同じようなことをやっていた)、それに経済産業省、原子力安全・保安院、更には地方自治体の長(知事)まで絡んでいたというから、企業不祥事の域を超えているかも...(反原発派の科学者・小出裕章氏が、シンポジウムが原発推進派のやらせであることを感じながらも、その中で孤軍奮闘していたのが印象的)。
 

 本書の著者は、元日本たばこ産業(現JT)の広報法マンで、今は危機管理コンサルタントをしている人。本書ではまず、企業が犯すミスには、①人為的なミス、②社内組織・社内システム的ミス、③機械的・プログラム的ミス、④倫理的なミス、の4つのミスがあり、最後の倫理的なミスは、必ず不祥事に発展するとしています。

 第1章で、ミスを無くすための組織作りとして、内部監査の重要性を訴えていますが、概念的な説明は簡単に済ませ、第2章では、不祥事で躓いた企業の事例を挙げていて、雪印乳業の食中毒事件('00年)、不二家の消費期限切れの牛乳を使ったシュークリームの製造・出荷事件('07年)、伊藤ハムの自社製品へのシアン化合物混入事件('08年)、三笠フーズの事故米の不正転売事件('08年)、大相撲の八百長疑惑・力士暴行事件、更に大麻吸引で力士が逮捕された事件('08年)について、その発覚の経緯と当事者の対応を、批判的に検証しています。
 一方で、不祥事に対し適切な対応をとったことで、不祥事をバネとした企業として、数は少ないものの、ジャパネットたかた等の例も挙げ、不祥事でダメ評価を受けた会社との違いとして、初期対応の在り方などを挙げています。

 第3章では、広報マンの経験から、危機管理の対応策が述べられていますが、「企業のコミュニケーション力が問われている」とか、間違っていないものの、やや啓発セミナーを聴いている感じで具体性に欠ける気も。

 それを補うかのように、第4章「いざというときの実践シミュレーション」で、ケーススタディとして、「役員の殺害と社員の情報漏洩がリンクしていた」ケースをもってきていますが、かなり特殊なケースであるし、取材記者への対応テクニックなど、企業の立場から、と言うより、広報マンの立場に終始している感じがしました。
 個人的には、内部監査についてもう少し突っ込んで説明してもらいたかったところですが、全体に、本を読んでいるというよりセミナーを聴いている感じ(コンセプチュアルな話はさらっと流して、後は事例や啓発譚とケーススタディでいくところなども)。

 しかも、一広報マンという立場から抜け切れておらず、些細なことは(広報マンが、自分が後で後ろ指を指されないようにするには必要な知識なのかも知れないが)、企業全体にとっての肝心なところは、具体性に欠けるという印象を拭い去れませんでした。


 振り返ってみれば、オリンパスの損失隠し問題にしても、大王製紙の巨額借入事件にしても、一広報マンの立場では殆どどうにもならない気もしますが、一方で、電力会社のやらせシンポジウムなどは、多くの電力会社社員が"やらせ質問"に立っているわけで、こうなると、ミスや隠蔽工作と言うより、ハナから国民に対する詐欺行為であり、国も企業も「個人」もひっくるめて巨大な犯罪組織と化している観があるなあ。

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This page contains a single entry by wada published on 2012年1月 3日 01:43.

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