【1658】 ◎ ヘンリー・ミンツバーグ (池村千秋:訳) 『マネジャーの実像―「管理職」はなぜ仕事に追われているのか』 (2011/01 日経BP社) ★★★★★

「●マネジメント」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒  【1678】 山下 徹 『貢献力の経営(マネジメント)
「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ ○経営思想家トップ50 ランクイン(ヘンリー・ミンツバーグ)

マネジャーの仕事ぶりの観察研究からマネジャーの実像を探った、啓発される要素の多い本。

『マネジャーの実像.jpg
    
マネジャーの実像.jpg  ヘンリー・ミンツバーグ(Henry Mintzberg).jpg Mintzberg, H. マネジャーの仕事.jpg
マネジャーの実像 「管理職」はなぜ仕事に追われているのか』(2011/01 日経BP社)『マネジャーの仕事』('93年/白桃書房)

Managing by Henry Mintzberg
Managing Henry Mintzberg .jpg  ヘンリー・ミンツバーグ(Mintzberg, H.)の"Managing"(2009)の訳書で、ミンツバーグには『マネジャーの仕事("The nature of managerial work"、1973)』('93年/白桃書房)という名著がありますが、前著は、5人の企業経営者に密着してその仕事ぶりを1週間観察研究することで、マネジャーの仕事の在り方を考察したものでした。36年ぶりに書き改められた今回のこの本では、29人のマネジャーの仕事ぶりを29日間観察研究し、そこからより深くマネジャーの実態を探っています。

 400ページを超える大著ですが、マネジメントに関心を持つすべての人に向けて書かれたものであり、マネジメントとは何か、マネジャーは日常どう行動し、それはどのような意味を持つかが分かり易く説かれているため、今現在マネジャー職に就いている人が自分の普段の行動や役割を振り返るうえで参考になるだけでなく、マネジャーと一緒に仕事をしている人、マネジャーの選考や評価、育成に携わる人にとっても、啓発される要素の多い本であると思います。

 前著『マネジャーの仕事』では、マネジャーの仕事を、過酷なペース、頻繁な中断、書面以外のコミュニケーションの多さ、行動志向の強さなど、「マネジャーの仕事の特徴」面からと、看板役、障害処理役など、「マネジャーの仕事の基本的役割」面という2つの視点から論じていましたが、本書でマネジャーの仕事の特徴面を分析している箇所は、基本的に前著に準拠しています(つまり、マネジャーが仕事に追われている状況は、現在も当時と何ら変わっておらず、むしろ強化されていると)。

 一方、マネジメントという仕事の内容(マネジャーの役割)については、「情報」「人間」「行動」という3つの次元でその仕事をとらえるモデルを提唱するとともに、29人のマネジャーの仕事ぶりを観察研究することから得られた、マネジャーが取る「基本姿勢」の類型(例えば、業務の円滑な進行を重視する姿勢、ミドルマネジメント層の枠内でマネジメントを行う姿勢、組織を外部環境と結びつける姿勢など)を示しています。

 更に、マネジメントに際して陥る、上っ面症候群、現場との関わりの難題、権限委譲の板挟みなどの避けて通れないジさまざまなジレンマを31項目にわたって論じたうえで、「有効なマネジメントとは何か」というテーマに挑み、マネジャーとして成功する人とは、MBA教育やリーダーシップ礼讃論に毒されているナルシストではなく、経験と常識を備えた「普通の人物」であり、マネジャーには飛び抜けた才能よりも、常識的に、そして明晰にものを考えられる頭脳が必要なのかもしれないと結論づけています。

 著者によれば、マネジメントとは、決して解決しないパラドックスと矛盾とミステリーに向き合う仕事であり、本書は、マネジメントに関する既存の常識を補強するために書かれた本ではなく、マネジメントについての新しい見方を世に問い、みんなで考えるように背中を押すことを目的としたものであるとのことです。

 本書では、リーダーシップをマネジメントの一つの要素として位置づけていて、ウォーレン・ベニスやジョン・コッターのようなMBAを席捲したリーダーシップ理論とは異なる立場をとっており、ドラッガーすら批判の対象となっています。

 そうしたリーダーシップ論への関心から本書を手にするのもいいし、サブタイトルにある「管理職」はなぜ仕事に追われているのかという素朴な疑問から読み始めても、随所で頷かされることの多い本ではないかと思います。

マネジャーの仕事.jpg【2202】 ○ ダイヤモンド社 『世界で最も重要なビジネス書 (世界標準の知識 ザ・ビジネス)』 (2005/03 ダイヤモンド社)
 

  
《●『マネジャーの実像』要約pp》
マネジャーの実像s1.pngマネジャーの実像s2.pngマネジャーの実像s3.pngマネジャーの実像s4.pngマネジャーの実像s5.png

《読書MEMO》
●リーダーは、マネジメントを他人まかせにしてはいけない。マネジャーとリーダーを区別するのではなく、マネジャーはリーダーでもあり、リーダーはマネジャーでもあるべきなのだと、理解する必要がある(13p)
●私たちがリーダーシップにこだわればこだわるほど、好ましいリーダーシップの実例が減っていくように見える(13p)
●マネジメントはサイエンスでもなければ専門技術でない。マネジメントは実践の行為であり、主として経験を通じて習得される(14p)
●マネジメントとは「いまいましいことが次々と降りかかる仕事なのだ(30p)
●マネジメントの現場では、重要な仕事とありきたりの雑務が不規則に混ざり合っているように見える。そのためマネジャーには、頻繁に、しかも素早く気持ちを切り替えることが求められる(32p)
●マネジャーは経済学で言う「機会損失」を恐れているようだ。ほかの仕事を放置して一つの仕事に専念すると、好ましい結果を得そこなうのではないかという不安に駆られているのだ(35p)
●マネジャーは、電話や会議や電子メールを終えて「仕事に戻る」のではない。こうしたコミュニケーションこそがマネジャーの仕事なのだ(40p)
●マネジャーは指揮者でもなければ、マリオネットでもない。状況をすべてコントロールできるわけではないが、まったくコントロールできないわけではない(49p)
●インターネットはマネジャーの仕事の性格を根本から変えるのではなく、この仕事に以前から見られる傾向を強化している(インターネットの影響でマネジャーはますます仕事に追われるようになった)(60p)。
●マネジャーにとって重要なのは、コントロールすることではなく、コントロールすることばかりを考えないようにすることだ(86p)
●《マネジャーの失敗のパターン》ザル型マネジャー(あまりにやすやすと外部の影響を組織内に流れ込ませる)、ダム型マネジャー(外部から影響を受けることを自分のところでとどめすぎる)、スポンジ型マネジャー(重圧をほとんど自分自身で受け止める)、ホース型マネジャー(ホースで水をまき散らすように、外部の人たちに強力な圧力をかける)、水滴型マネジャー(外部に対して、水がポタポタ落ちる程度にしか圧力をかけられない)
●バランスのとれたマネジメントは、そのときどきに直面する課題に合わせて、さまざまな役割の比重を絶えず変化させることによって実現する(146p

Categories

Pages

Powered by Movable Type 6.1.1