【1656】 ◎ 佐藤 政人 『2013年、日本型人事は崩壊する!―企業は「年金支給ゼロ」にどう対応すべきか』 (2011/03 朝日新聞出版) ★★★★☆

「●人事マネジメント全般」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1686】 楠木 新 『人事部は見ている。
「●人事・賃金制度」の インデックッスへ

報酬制度改革がまだ不十分というのは現場感覚に近い。人事の課題と今後の取り組みの方向性がよく纏まっている。

『2013年、.jpg2013年、日本型人事は崩壊する.jpg2013年、日本型人事は崩壊する! 企業は「年金支給ゼロ」にどう対応すべきか』(朝日新聞出版)

 タイトルにある「2013年」問題というのは、「2013年度からは60歳になっても厚生年金が受給できなくなる」ことにより起きると予想される問題を指しています。現在も、60歳から64歳までの間に支給される特別支給の老齢厚生年金は、1階の定額部分相当の支給開始年齢が60歳から65歳へと段階的に引き上げられていますが、2013年度からは、2階の報酬比例部分も60歳から65歳へと引き上げられることになっています。

 但し、こちらも支給開始年齢の引き上げは段階的に行われるため、完全に65歳支給開始となるのは2025年度であり、ちょうどその時に64歳になる人については、その年も含めた前5年間(2021年度~2025年度)は年金が支給されないことになります。2013年度から60歳到達者がすぐに年金をもらうことができなくなるのは確かですが、2013年度に60歳になる人は、2014年度からは報酬比例部分の支給が始まります。60歳到達者を基準に、その人に報酬比例部分が支給されるのはいつかと考えると、それは2013年度から2021年度にかけて段階的に起きる問題であるととれなくもありません。

 しかし、いずれにせよ企業は、被用者の65歳までの雇用を実現し、さらには70歳までの雇用を考えていく必要があり、その1つの節目が2013年であることに異論はありません。こうした時代を迎え、わが国の人事制度や人材戦略は大きく変わらざるを得ないだろうと著者は予測しています。

 著者によれば、成果主義が流行したといえ、真の報酬改革を断行した企業は少なく、リーマンショックの影響で人材育成や人材活用への取り組みも道半ばであり、多くの企業で、嘱託者の処遇是正、実力主義への転換、若年層の効率的育成、高齢者や女性の活用といった課題が残されているとのことです。

 その上で、これからの報酬制度は、能力によって報酬が変わる制度から、同一労働同一給与の原則に基づく職務給制度への転換が求められるとし、給与については、職務評価をシンプルにして要員管理にも応用可能な日本型職務給制度を、賞与については、業績と賞与総原資との相関を強めた業績連動賞与を提唱しています。

 この部分はオーソドックスな提案であるがゆえに、2000年代前半までに何度もなされてきたものと重なる部分は多いのですが、企業の関心事はリーマンショック前にはすでに人材開発の充実やES(従業員満足度)の向上に移行しており、報酬制度改革はそれ以前に完了しているという認識が風潮としてある中、その改革は充分なものではなく、例えば年功的賃金などは実態として今でも残っているという著者の主張は、大方の人事の現場の実感に近いものではないでしょうか。

 報酬制度改革に伴い、人事部の人材採用や人材育成にも変化が現れるであろうとし、後半部では、人材育成やキャリア開発の進め方についても実務的な視点から解説しています。例えば、20歳代後半から選抜型エリート教育を開始し、自主性に任せるのではなく、半強制的に教育をする必要があるとし、内部講師を起用する機会が増えるだろうが、嘱託者に先生になってもらうのも一案であるといった具合に、高齢者の活用なども視野に入れた提言がなされ、さらに、中堅層や高齢層のキャリア開発のポイント、女性の活用支援策も提言されています。

 最後に、「日本企業に必要な価値観/風土」として、①修羅場を体験できるローテーションに手を挙げる、②年長者を敬う、③部下をリスペクトする、④助け合いの精神を共有する、⑤完全リアイアするまで上昇志向と付加価値向上意識をもち続ける、の5つを掲げていますが、日本的風土として"守るべきもの"があり、それを失ってはならないという著者の考えが織り込まれているように思います。

 書名自体は煽り気味ともとれますが、人事の課題と今後の取り組みの方向性がよく纏まっていると思います。企業が国際競争力を身につけるうえで、報酬制度改革は避けて通れない課題であり、2013年問題がそうした改革の契機になればという思いが込められているように思われました。併せて、次なる改革においては、報酬制度だけではなく、人材育成・キャリア開発といった課題にも人事は目を向けなければならないことを示唆した良書だと思います。

 《読書MEMO》
●日本企業が抱える人事・報酬システムの課題(62p)
①"55歳定年"が根底に残っている
② 給与カーブが年功的である
③ 人件費が変動費化されていない
④ マスメディアさえ報酬ポリシーを誤解している
⑤ 嘱託者が活躍していない
⑥ 女性がまだまだ活躍していない
⑦ 大学全入世代の受け入れ体制が整っていない
⑧ ハングリー精神などの面で中国人に完敗している
⑨ 諸施策がモチベーション向上につながっていない
⑩ コア人材の育成が遅れている
●これからの人材育成キーワード(153p)
① 半強制
② 基礎
③ 体験
④ 終身教育
⑤ PDCA
●日本企業に必要な価値観/風土
①修羅場を体験できるローテーションに手を挙げる
②年長者を敬う
③部下をリスペクトする
④助け合いの精神を共有する
⑤完全リアイアするまで上昇志向と付加価値向上意識を持ち続ける

Categories

Pages

Powered by Movable Type 6.1.1