【1655】 △ 和田 栄 『ちょっと待った!! 社長!その残業代払う必要はありません!!  (2011/02 すばる舎) ★★☆

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このタイトル、どうなんだろうか。

ちょっと待った 社長 その残業代払う必要はありません.jpg 『ちょっと待った!! 社長!その残業代払う必要はありません!!』(2011/02 すばる舎)

 う~ん、あんまりこんなタイトルの本、出さないで欲しいなあという感じ。

 書かれている内容そのものは、残業代についてだけでなく、有給休暇や給料、解雇や退職金についても網羅されていて、著者の基本的なスタンスは、どこまでが法律で制限されていて、どこからは労使(実質的には経営者)に委ねられているか、それに対して御社の就業規則や賃金規程、労働慣行は、経費に余裕がないにも関わらず"過払い"になっているようなことはないかをチェックし、節約できるところは節約しましょう―ということなのでしょうが。

 こういう本が出るとAmazon.comのレビューなどでは、まず「中小企業の経営者にとっての福音の書」的なコメントが書き込まれ(発行日から間もない内に書き込まれるのものには、インナーによる宣伝の場合もあるが)、やがて今度は労働者側から、「経営者に理論武装される前に読んでおきましょう」的なコメントが並んだりもしますが、本書については、それに加えて、経営者におもねるような姿勢を揶揄するコメントもあったように思います。

 中には、著者は「所定労働時間を超えて法定の8時間までの部分は法内残業である」としているが「法内残業であっても割増がつかないだけで、残業代は払わなければならないのではないか」といったコメントも見受けられましたが、内容的にはその通りに(時間単価×1.25払う必要はないが、時間単価×1.00は払う必要があると)書かれています。

 その他にも、法的におかしなことが書かれているわけではないのですが、タイトルや「人件費削減」が先ずありき的な姿勢から、そう書いているように捉えられてしまうのだなあと。不況の折、中小企業の経営が厳しいのは解るけれど、とにかく人件費を減らせばいいってものでもないでしょう。本書にある削減策の中には、策を講じたとしても、削減額の知れているものもあるし。

その残業代払う必要はありません.jpg 裏表紙に「本書は、中小企業経営者のためだけに徹底的に解説しています。社員の皆様は、ご遠慮ください」と書かれているのも、良く言えばターゲットを明確にしているということなのかも知れませんが(書店に並ぶわけだから、穿った見方をすれば、労働者側も第2のターゲットにした戦術なのかもしれないが)、「売らんかな」的な姿勢が先行するあまり、法律の隙をついたテクニカルな解説に終始し、労使協調や従業員のモチベーションということが軽んじられているような印象を受けました。
 
 自社の就業規則のどの部分が法律の基準に沿ったものであり、どの部分が法律の基準を超えるものであるかを、経営者が知っておくこと自体は意味があると思います。確かに、中小企業などで、経営的に余裕があるわけではないのに、払わなくてもいいものを払っているケースは少なからずあります。

 但し、すでに就業規則や賃金規程で定められていることを改変する場合は、労働条件の不利益変更に該当する場合があり、その際には労働契約法9条・10条の規制を受けるということも、本書ではあまり突っ込んで解説されていません。
 
 残業代を減らしたければ、社内ルールの徹底、業務の改善・効率化が先でしょう。経営者が本書によって"ミスリード"され、却って労使関係に齟齬をきたすようなことのないことを祈るのみです。

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