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管理者(管理職)によるケア(ラインケア)について、分かり易く実践的に書かれている。
『職場のメンタルヘルス実践ガイド―不調のサインの見極め方診断書の読み方から職場復帰のステップまで』(2011/01 ダイヤモンド社)
厚生労働省の「「労働者の心の健康の保持推進のための指針(メンタルヘルスケア指針)」(平成18年3月策定)」では、事業者は、メンタルヘルスケアに関する事業場の問題点を解決する具体的な実施事項等についての基本的な計画(「こころの健康づくり計画」)を策定する必要があるとし、この計画の実施に際しては、
「セルフケア(自分自身で行う対策)」
「ラインによるケア(上司や管理者が行う対策)」
「事業場内産業保健スタッフによるケア(社内の保健関係スタッフによる対策)」
「事業場外資源によるケア(社外の専門家に等に依頼して行う対策)」
の4つのメンタルヘルスケアが継続的且つ効果的に行われることが必要だとしています。
この内、職場でのメンタルヘルス推進の基本は、ラインによるケア(上司や管理者が行う対策)にあると言われていますが、本書は、そうした管理職のためにラインケアの実践の在り方を説いたものです。
第1章の「職場の心の健康を守る技術―ラインケア」では、ラインケアの実行項目のポイントやヒントについて書かれています。第2章では、メンタルヘルス診断書が職場に提出された後の対応について、第3章では、職場復帰を成功に導く方法について述べられています。第1章はいわば「予防」にあたり、第2章・第3章は、メンタル不全者が出てしまった場合の「事後の対応」にあたると言えるでしょう。
メンタルヘルス関連の書籍は数多く刊行されていますが、本書の特徴は、第1章の「ラインケア」の部分に全体の3分の2ものページを割いていることで、職場で増加するメンタルヘルスの問題を未然に防ぐために、あるいは重篤化しないようにするために、現場のリーダーとして「すべきこと」「してはいけないこと」が丁寧且つ実践的に書かれています。
具体的には、管理職がなすべきラインケアを「見る」「「話す」「聴く」「対処する」の4つに分け、全部で12のチェックポイントを示していますが、例えば「見る」については「サインを見る」「能力を見る」「人間関係を見る」という3つのポイントが掲げられていて、従来のラインケアの解説書よりも視野が広いように思われました。
個人的には、結局これらは、管理職として自分が部下に対してやるべきことをやっているかということのチェック項目であると言い換えることが出来るようにも思われ、メンタルヘルスケアというのは、現場のリーダーにとってはマネジメントの延長線上にあり、マネジメントの一環であるとの思いを改めて抱きました。
現場の管理職向けに分かりやすい言葉で書かれていて、カウンセリング手法をベースとした部下コミュニケーションの具体例などがポイントごとに織り込まれているため、現状で部下がメンタルヘルス不全になりかけているといった問題を抱えているリーダーには、参考になるのではないでしょうか、
また、特に現状では自分の職場に関してはメンタル不全の問題は無く、と言って、本書に書かれていることを一時(いちどき)に実行するのは難しい(確かに...)、或いはそうした機会がすぐには訪れるとは思えないという管理職やリーダーもいるかもしれませんが、過去の自らの経験等を顧みつつ本書を読むことで、メンタルヘルス推進に対する認識のレベルを日頃から高めておくという自己啓発的な読み方でいいのではないでしょうか。よくポイントが整理されているため、再読もしやすいかと思います。
第1章の終りで、職場でメンタルヘルスを推進するリーダー像とはいかなるものかについて、組織とリーダーシップという視点で「PM理論」をベースに解説されているのが興味深かったです。
「PM理論」については既知の人事担当者も多いかと思いますが、メンタルヘルスにおけるラインケアという文脈の中で読み返してみるのもいいのではないかと思います。