【1652】 ○ 中嶋 嶺雄 『なぜ、国際教養大学で人材は育つのか (2010/12 祥伝社黄金文庫) ★★★☆

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企業の採用担当者の間で話題の大学。国際教養人を育てるための取り組みが徹底している。

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なぜ、国際教養大学で人材は育つのか (祥伝社黄金文庫)』 国際教養大学の365日24時間開館の図書館

 この就職氷河期と言われる時代において、新進ながらも"就職率100%"の大学として、企業の採用担当者や大学の就職関係者の間で最近話題となっている国際教育大学(AIU)は、'04年春に日本初の公立大学法人として、秋田市(当時は秋田県雄和町)に開学した学校ですが、本書はそのAIUについて、学長自身が歴史や理念、取り組みを紹介したもの。

 本書で紹介されているAIUの特徴としては、●国際教養という新しい教学理念、●全授業を英語で行なう徹底した少人数教育(学生対教員数は15:1)、●必須の海外留学(1年間)、●厳しい卒業要件、●365日24時間開館の図書館などが挙げられます。

 秋田県が東京外国語大学の元学長を引っ張って来て、「あなたの思うような学校作りをしてください」と言って出来たのがこの大学であるわけで、学長自らが語っているため、やや「宣伝本」のキライもありますが、併せて、高等教育に関する問題意識や提言が随所にあり、これはこれでいいのでは。

 それにしてもスゴイね。入試偏差値は東大・京大レベルで、入学した1年生は外国人留学生と相部屋の寮生活、海外留学は卒業の要件ですが、英語力が一定レベル(TOEFL550点以上)にならないと留学出来ず、その他にも卒業のための厳しい要件があって、4年間で卒業できた学生は51.2%(2009年度)と全体の約半数であったとのこと。

 この就職難の時代に、企業の方から秋田の地を訪れて、企業ガイダンスをやるというからますますスゴイなあと思いますが、考えてみれば、これだけ市場がグローバル化した時代に、企業が(不足している)グローバル人材の獲得・育成に注力するのは当然と言えば当然、日立製作所などのように、「文系は全員グローバル要員」と言い切る企業もあります。

 著者自身、「世界を相手にする企業における、社内の英語公用化は望ましい」と言っているぐらいですが、英語力をつけさせるだけでなく、人口学、比較文化学など多様な人文学・社会科学系の学問に加えて、物理や生物などの自然科学系科目、また華道や茶道など、日本の伝統芸能も学ぶことができるとのことで、但し、あまり入試が難しくなり過ぎると、結局、上智大学の国際教養学部の最初の頃のように帰国子女ばかりにならないかなあ(上智の同学部は、現在は帰国子女の定員枠が設けられている)。

 4年間でストレートに卒業する学生が50%というのは、ハーバードでもその割合は50%程度というから、そうした世界のトップ大学を見据えているのだろうし、大学教員の教育実績を評価し、一定のレベルに到達しない教員とは再契約しないというのも、そうした海外の一流大学では行われているのかも(研究成果を上げないと再契約してもらえないというのは、海外の理科系の大学のフェローなどでは珍しいことではないが、AIUの場合、「教育」と「研究」の比重はどうなっているのだろうか)。

 就職難の時代、入試レベルが低偏差値であっても、学生の企業への就職において一定の成果を上げている大学はあり、但し、その実態は、「大学教育の専門学校化」だったりするわけで、そうした動向と比べれば、広い意味での国際教養人を育てようというAIUの取り組みは評価できるものであるかもしれず、また、その徹底ぶりには、やるならやはりここまでやらねばならないのか、という思いにさせられます(どの大学もがこのようになる必要は全く無いと思うが)。

 今のところ、企業側がAIUの学生に期待を込めて積極採用しているというだけで、それらAIU出身者のビジネスの世界での評価はこれからでしょう。
 但し、AIUのことを今まで知らなかったという企業の採用担当者は、"情報"として、一応は読んでおいていいのでは。

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中嶋嶺雄(なかじま・みねお)2013年2月14日、肺炎のため秋田市内の病院で死去。76歳。

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