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労働契約法を実務に落とし込むことで、労働法と企業実務の新たな関係を浮き彫りに。
『労働契約の視点から考える労働法と企業実務』(2010/10 日本法令)
労働法に精通した弁護士による共著(夫婦? 男性の方のセミナーは聴いたことがある)。全体で約200ページ、2部構成になっていて、第1部では労働契約法の概要を解説し(約60ページ)、第2部では労働契約に関するQ&Aを50取り上げ(約100ページ)、巻末に労動契約法とその施行通達がきています。
第1部の労働契約法の解説部分では、労働契約法と労働基準法との差異、法の概要、法制定の背景を解説するとともに、労働契約に関して、その基本原則(①合意の原則、②均衡の原則、③仕事と生活の調和、④契約遵守・誠実義務、⑤権利濫用の禁止、⑥契約内容の理解促進、⑦契約内容の書面確認、⑧安全配慮義務)、労働契約の成立、変更、継続及び終了、期間の定めのある労働契約に関することを、労働契約法に照らしながら解説しています。
「労働契約の法的理解の勘どころを的確に突く」と帯フレーズにもあるようにコンパクトな解説ながらも、随所において労働契約法の制定過程で審議・検討されたことも含めて解説されているため、「小さく産んで大きく育てる」と言われている労働契約法の今後のベクトルが浮き彫りにされているように思いました。
後半部分のQ&Aは、日本法令の雑誌『ビジネスガイド』に連載されたものを纏めたものですが、単行本化にあたって大幅に加筆修正されたとのこと。各設問が、第1部の労働契約法の解説に沿ってグループ分けされていて、内容的にも、「労働契約とは何か」「労働契約上の権利行使は義務となるのか」「賃金と労働契約とはどのような関係に立つのか」といった概念的なものから、「退職の撤回を求める従業員への対応」「失踪者に対する解雇の意思表示」といった実務に近いものまで取り揃えられています。
本書のタイトルが示唆し、また、著者らが冒頭で述べているように、労使関係を「契約」という視点で見ることで、これまでどちらかと言えば「支配従属」関係として捉られてきた労使関係のもう1つの側面が見えてくること方が考えられ、本書は、労働契約法を実務に落とし込むことで、労働法と企業実務の新たな関係を浮き彫りにしたものと言えます。