【1641】 ○ 佐藤 博樹/武石 恵美子 『職場のワーク・ライフ・バランス (2010/11 日経文庫) ★★★★

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社員全般の問題として働き方改革を提起していて、WLB入門書として今日的スタンダード。

1職場のワーク・ライフ・バランス.png職場のワーク・ライフ・バランス 日経文庫.jpg    男性の育児休業―社員のニーズ、会社のメリット.jpg  人を活かす企業が伸びる 帯付き.jpg
職場のワーク・ライフ・バランス (日経文庫)』['10年]/『男性の育児休業―社員のニーズ、会社のメリット (中公新書)』['04年]/『人を活かす企業が伸びる―人事戦略としてのワーク・ライフ・バランス』['08年]

 働き方を見直し、仕事と仕事以外の生活のどちらも充実させるワーク・ライフ・バランス(WLB)支援が、人材マネジメントにおける今日的かつ重要な課題であるという認識は、企業間に急速に浸透しつつあると思われます。また学究的立場からも、多くの研究者がこの領域に"参入"しつつあるように思います。

 本書は職場の管理職層を主な読者層として書かれた入門書ですが、研究者である著者らには、『男性の育児休業―社員のニーズ、会社のメリット』(2004年3月中公新書)、『人を活かす企業が伸びる―人事戦略としてのワーク・ライフ・バランス』(2008年11月 勁草書房)などの前著があり、早期からこの課題に取り組んできた執筆者であると言えます。
 
 第1章から第2章にかけて、なぜワーク・ライフ・バランスが必要なのかを再整理し、今日においては「時間制約」のある社員が増えているにもかかわらず、職場の時間管理は、いまだに「時間制約」のない"ワーク・ワーク社員"を想定している場合が多く、今後は"ワーク・ライフ社員"も意欲的に仕事に取り組め仕事が継続できるような、働き方の改革が必要であるとして、その在り方、改革の進め方を提唱しています。

 第3章では、その際の重要ポイントとして、組織のコミュニケーションの円滑化を掲げ、何がコミュニケーションを阻害し、それを取り除いて組織コミュニケーションを円滑化するにはどうすればよいかを、具体的事例なども織り込みながら解説しています。

 後半の第4章では、育児・介護休業や短時間勤務制度を利用しやすくするにはどうしたらいいかを、例えば、制度利用を人事処遇にどう反映させるか(休業制度利用者の期間中の評価をどうするか)といったことにまで踏み込んで解説し、第5章では、女性の活躍の場を拡大することの必要を説いています。
 WLB支援と均等施策を"車の両輪"として推進すべきであるとの考え方は著者らが以前から提唱していることですが、ポジティブアクションという施策的観点から再整理されているのが本章の特徴です。

 第6章では、男性の両立問題を考察し、男性の両立を支援することが女性の活躍の場を広げることにもつながるとし、最終章の第7章では、キャリアプラン、或いは更に推し広げて、ライフデザインという観点から働き方を見直すことを提唱しています。

 以上の流れからみてわかる通り、従来のこの分野の入門書が、育児や介護と仕事との両立支援の問題から説き起こし、実はこれはそうした特定の社員の問題ではなく、働く人全般に関わる問題であるとして、働き方の改革を進めなければならないという論旨になる傾向があったのに対し、本書では、前半部分で社員全般の問題として働き方改革の問題を提起しており、ワーク・ライフ・バランス(WLB)の入門書としては、今日的なスタンダードではないかという印象を持ちました。

 旧著『男性の育児休業』は、人材マネジメントというより労働社会学的観点から書かれた本ですが、北欧諸国における男性の育児休業取得率が高い要因として、法律で一定の強制力を持たせていることなどが紹介されていて、これを読むと、日本での法改正が緩慢であると思わざるを得ず、今読んでも日本がまだまだ遅れていることにインパクトを受ける本です。

 一方、前著『人を活かす企業が伸びる』は、ワーク・ライフ・バランス支援が企業にとってどのようなメリットがあるかを、データ分析により実証的に明らかにしようとしたもので(そのことを通して、両立支援策と均等施策の双方を実施することが重要であるという結論への落とし込みもなされている)、こうした検証が日本は欧米に比べて10年以上も遅れていることからみても、意義のある研究であるとは思いましたが、学術書の体裁であるため具体的な提案はそれほどなされておらず、むしろ、入門書である本書の方が具体的な提案要素は多いように思いました。

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