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学生にとっての良書は、企業の採用担当者にとっても参考になることがある。
『人事のプロは学生のどこを見ているか (PHPビジネス新書)』['10年]『就活のしきたり (PHP新書)』['10年]
同時期に読んだ『就活のしきたり―踊らされる学生、ふりまわされる企業』(2010/10 PHP新書)は、「PHP新書」の品格を疑うようなレベルであり、学生にとっても企業の採用担当者にも役に立たない本のように思いましたが、版元が同じでありながらも本書の方はマトモであり、蹴活本が大流行りのご時世ですが、学生にとっての良書は、企業の採用担当者にとっても参考になることがあると思わせるものでした。
そんな言い方をすると、マニュアル化された学生の「傾向と対策」を、面接場面においてどう突き崩すかが分かる本ともとれそうですが、本書はそうした小手先の戦術的なレベルの本ではなく、書店に溢れているマニュアル的な蹴活本とは一線を画し、但し、マニュアル本を全否定するわけではなく、より深い意味において、会社側は学生のどこを見ようとしているのかを、経験的且つ体系的に探ったものとなっているように思いました。
まず典型的な採用のプロセスを概観したうえで、会社側の意図や重視する部分を説明し、更に、「コミュニケーション力」とは何か、「行動力」とは何かについて掘り下げて解説されています。
グループ討議で重要なのは「それらしい結論に導くことよりも、自分の意見をきちんと出して議論すること」、最終面接で重視されるのは、「能力的なことよりも、本気でこの会社に来てくれるかどうか」といった太字で書かれている部分は、人事部の担当者にとってはある程度分かっていることかも知れませんが、現場の面接担当者や役員に関してどれぐらい共有されているでしょうか。
「面接官も間違いを犯す」という前提のもとに、考課者研修などではお馴染みの「ハロー効果」や「対比誤差」といったものが、面接場面でどのように現れるかが分かり易く具体例で示してあり、「ああ、こんなこと、今までの面接でもあったなあ」とか「これ、面接担当者の指導要領として使えるなあ」などと、密かに思ってしまいました。
「企業分析」をする際に、バリューチェーン分析でその会社の仕事の流れを理解せよと説いているのも、一般の蹴活本などにあまり書かれていないことではないでしょうか。
学生からすれば、本書を読んでテクニックを学ぶのではなく、そこから、より深い企業研究を自らの努力でしていかなければならないということですが、表面的な企業情報の検索に終始し、そうした受身的ではない、自分の頭で考える企業研究というのがあまりなされていないのが、現在における「蹴活」の状況であり、そのことが、学生側から見れば「自分らしさ」を出せず、企業側からすれば「本当の姿が見えてこない」という結果を生みだしているようにも思います。
後半では、学生に向けて「働きたい会社の見つけ方」を説いていますが、外資系企業、非上場企業、ファミリービジネス(同族)企業などの幅広い範囲にわたって、その特徴やコーポレートカラーを的確・簡潔に示しつつも、最後は、会社の方針と自分の価値観が一致することが大切であると説いているのもいいです。
全体を通してとりたてて奇抜なことや目新しいことが書かれているわけではありませんが、企業側にとっても、本書に書かれていることに照らした場合、自社における新卒採用の選考や面接の在り方はどうかを確認するうえで、一読の価値はあったように思います。