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コンセプトがしっかりしていて、実務面のフォローもされているのが良い。
『1人採るごとに会社が伸びる! 中途採用の新ルール』(2010/10 すばる舎)
採用に関する本が最近また何冊か刊行され始めていますが、本書のように中途採用に的を絞ったものは、今のところそれほど多くありません。これは、中途採用は各社の事情によって様々なやり方があり、これというモデルを規定できないという考え方がどこかにあるからではないでしょうか。
しかし、採用コンサルタントが中途採用の方法論を説いた本書を読んで、やはり中途採用にもベースとなる戦略やノウハウはあるのだと思いました。
著者は、人材獲得競争の激しいIT業界の中のある企業で採用に携わってきた経験の持ち主ですが、「待ち」の採用ではなく「攻め」の採用を行うことで、採用を軸として会社を一気に伸ばすことを提唱しています。
そのための方法論として、例えば、優秀な人材が多いと思われる「非転職希望者」層をいかにして取り込むかという課題を、採用活動を「リクルーティング」(募集)と「ハイヤリング」(雇用)を分けて考えることから説いています。
つまり、常日頃において人材情報をストックしておくことが大切であり、その上で、実際の採用段階においてはスピードとタイミングが重要であるとし、さらに具体的な方法論を説いています。
その中には、「選んでやろう」「見てやろう」とせず、「トップが "三顧の礼"で駆けつける」「30分の面談のために採用担当者が出向く」といった啓発的な内容も含まれますが、先に戦略的なコンセプトを示し、そのうえで具体的な対応にまで落とし込んでいるため、採用担当者が読んで、たいへんしっくりくる内容となっているのではないでしょうか。
とりわけ、欲しい人材をどこから採用するか(採用ソース)については、公募や社員紹介、人材紹介会社の活用など、多面的に言及されています。
「入社日の45日前には承諾のサインをもらう」といったことは、ある程度の長期にわたって採用を経験している担当者であれば、その必要を感じているのではないでしょうか(それでいて、こうしたことが書かれている本は少ない)。
一見「優秀そうに見える」履歴書には落とし穴があることがあり、どこを注視すればよいかを解説した箇所なども、思い当たるフシは多いのは。
一方で、コストをかけて採用した人材を定着させるために、入社直後に「入社インタビュー」を行って中途採用者のサポート体制を整えるといったことは、その必要を感じながらも、行っていない企業が多いのではないでしょうか。
そうした意味では、自社で今どういった施策が不足しているのかをチェックする目安にもなるかと思います。
最後に、「採用」マネジメントと併せて、「離職」もマネジメントすべきものであるという考え方を示し、それは自主的に自分の将来を考えてもらう仕組みづくりであって、それを行わないと、本当の肩たたきや、それ以上の大量解雇が始まるリスクがあるとしていますが、この部分にも共感しました。
極端な事例ばかり挙げて読者の表面的な関心を引こうとする本も類書に多い中、本書は平易な文章で書かれていながらもコンセプトがしっかりしていて、実務面のフォローもされているのが良く、また、中途採用のノウハウを惜しみなく開示している姿勢にも好感が持てました。