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退職給付会計に関する知識をブラッシュアップする上で、実務に沿った解説がなされている良書。
日経文庫は、そのラインアップに、ビジネス関係の入門書を多く揃えていることで定評がありますが、それらのタイトルの付け方は、「入門」「知識」「実際」といった具合に、そのレベルや内容によってわかれています。
本書は、「初めて退職給付会計を学ぶ人を対象に、ケーススタディを多用してわかりやすく解説した入門書」とのですが、コンパクトな新書でありながらも、社会人・企業人向けに単行本として売られている退職給付会計の一般入門書よりは、かなり詳しく解説されています。
入門書としての要件も満たしていますが、初学者で、本書を読んだだけで退職給付会計の概要を理解し得た読者がいるとすれば、もともと相当の財務的知識なりセンスなりの持ち主であったということではないでしょうか。
むしろ、ある程度、退職給付会計を学習したり、実務で関わったりしたことのあるビジネスパーソンが、自分の知識を深める(ブラッシュアップする)ために読むのにふさわしい内容でありレベルではないかと思います(だから「入門」ではなく「知識」というタイトルになっているのだともいえる)。
本書は、2006年に刊行された第1版の改訂版で、それ以降の数年間で退職給付会計に関する幾つかの改正が行われ、また、年金資産の運用環境や、経済環境、企業の経営環境も、金融ビッグバンと言われた2000年代初頭からこの10年間で変化していることから、法改正部分だけでなく、統計や事例も最新情報に改められています。
退職給付会計の基礎計算は、人事パーソンも知っておいて損はないし、知っておくべきであると思いますが、その他にも、退職給付制度の終了時の扱いや確定拠出年金への移行、総合型年金基金から脱退する際の会計処理、事業再編時の対応など、実務上で発生するケースを想定しての解説がなされています。
さらには、昇給率、退職率などの基礎率が大きく変動した場合や、超過積立、大量退職などの例外的な局面での対応についても解説されていて、こうした人事マネジメントの問題が絡むケースになると、会計の専門家でもどこまで明確な説明が期待できるか。むしろ、自分で勉強した方が早いというのもありますし、退職給付制度の見直し等において、金融機関と対等に意見交換ができるようになるという強みにも繋がるかと思います。
退職給付会計は、人事マネジメントの問題と併せて金融ディスクロージャーの問題を内包しているわけですが、国際財務報告基準(IFRS)については、(導入が正式決定されていないためか)本書ではほとんど触れられていません。
IFRSについては、最近になって入門書が多く刊行されており(「日経文庫ビジュアル」にも『IFRS(国際会計基準)の基本』('10年4月)というのがある)、そちらを読めばいいということなのかもしれませんが、経理・財務的な視点に重きをおいて書かれたものがほとんどであり、人事パーソンにとってはあまり効率のよい参考書がないのが痛いところです。