【1623】 ○ 滝田 誠一郎 『65歳定年時代に伸びる会社 (2010/05 朝日新書) ★★★★

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50歳を過ぎたら管理者を除いて評価をやめ、給料も固定給にするというユニークな提言。

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65歳定年時代に伸びる会社 (朝日新書)』['10年]

 産労総合研究所の人事専門誌「労務事情」の2009年3月1日号から9月1日号にかけて7回に分けて連載されたものに加筆修正して、1冊の新書にまとめたものです(連載時のタイトルは「定年前OB化―50代からのモチベーションアップにどう取り組むか」)。

 これまで多くの企業の人事制度を取材してきた著者によれば、企業に勤める社員は50代になると自分のゴールが見えてきてしまうために、定年前であるにもかかわらず、気分的に"OB化"してしまいがちであり、活躍の場を失って評価も給与も下がり、将来への希望も絶たれることから、「上昇停止症候群」「空の巣症候群」といったある種のうつ状態に陥るケースも少なくないと。

 本書では、そうした50代60代の社員の活性化を図るために、①中高年コーチ制度、②社内ダブルワーク制度、③マイスター制度、④NEWジョブタイトル制度、⑤社内人材マーケット制度などの多くの施策が提案されています。

 数ある本書の提案の中で最も目を引くのは、50歳を過ぎたら管理者を除いて評価制度の適用を廃止し、給料も固定給にすべきであるというものではないでしょうか。

 50代60代の社員を評価対象外とする理由として、①評価が処遇に反映されていないという現実からみて、評価する必要性があると思えない、②通常の評価制度では50代60代の社員に期待される役割能力を適正に評価することができない、③50代60代の社員を評価することのメリットよりも、かつての部下に評価されることで、プライドが傷つきモチベーションが下がるデメリットの方が大きいと考える、という3つを挙げています。

 そして、評価しないのであれば、50歳以降は固定給としてその後の昇給は行わず、そのかわり定年を65歳まで延長して、65歳まで50歳時の年収を固定することを提案しています。
そうすると、社員側からすれば、50歳以降の昇給分がなくても従来通りの生活水準を維持することは可能であり、企業側としても、人件費の伸びを抑えたまま65歳定年制を実現できるとしています。

 また、50歳以降は評価も昇給もしないという案に反発が予想される場合の施策として、評価は行うが、その結果を賃金にではなく労働時間(時短)やフリンジベネフィット(金銭外報酬)に反映させることなども提案しています。

 著者の新書での前著『人事制度イノベーション』('06年/講談社現代新書)では、同評価であれば上位職層ほど多く昇給するのが当然という従来の考えでは、バブル崩壊後に入社した社員は、いつまでたっても今の中高年の賃金水準に届かないと指摘し、若年層ほど成果主義の色合いが強い賃金制度にすべきであるという「世代別逆転」成果主義という考えが提唱されていて、企業の賃金制度の運用実態をよく知ったうえでの、パラダイム変革的な提言に思えました。

 本書での提言は、前著での提言と相互補完関係にあるともとれますが、同様にユニークかつ検討に値するものであるように思えました。
 但し、50歳以降は、上司と部下との間で定期的なコミュニケーション&カウンセリングの機会を持つことさえできれば、必ずしもそこに評価が介在する必要はないという考えは理解できる一方、50歳以降は昇給もしないということになると、中高年のモチベーションアップを図るための、中高年に特化した研修をそれなりに工夫しなければならないでしょう。

 本書はそのことをも踏まえ、そうした研修の在り方についても多角的な提案がなされています。賃金制度の在り方についての提案に目が行きがちですが、本書を読むに際しては、この部分を読み落とさず、自社適合を探ることが大切なのかも知れません。

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