【1621】 △ ダニエル・ピンク (大前研一:訳) 『モチベーション3.0―持続する「やる気!(ドライブ)」をいかに引き出すか 』 (2010/07 講談社) ★★★

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要するに「内発的動機づけ」理論。読みやすいが、ほとんど新味が感じられない。プレゼン上手。

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モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか』(2010/07 講談社)
ダニエル・ピンク(Daniel Pink)著述家、ジャーナリスト、スピーチライター。 Daniel Pink in 「TED」(日本語訳)

 タイトルから、新しいモチベーション論を展開している本かと思う人も多いのではないかと思いますが、そうではなく、これまでの動機づけ理論の流れを分かり易くまとめた1冊といった方が適切でしょう(読み易いことは読み易い)。

モチベーション3.0 週刊東洋経済.jpg 人を動かす力、つまりモチベーションを、コンピュータを動かす基本ソフト(OS)に喩え、〈モチベーション1・0〉が、生存(サバイバル)を目的としていた人類最初のOSだったのに対し、〈モチベーション2・0〉は、アメとムチ(信賞必罰)に基づく、与えられた動機づけによるOSであるとしています。
 そして、その〈モチベーション2・0〉は、ルーチンワーク中心の時代には有効だったものの、今日では機能不全に陥っているとしています。
from「週刊東洋経済」

 では、〈モチベーション3・0〉とは何かというと、それは、自分の内面から湧き出る「やる気」に基づくOSであり、活気ある社会や組織をつくるのは、この新しい「やる気=ドライブ」であるとしています(本書の原題は"Drive")。

 アメとムチによる〈モチベーション2・0〉がうまくいかない理由を、心理学の実験による検証例によって解説し、賞罰制度の問題点を指摘する一方、「内発的動機づけ」による"新しい"モチベーション論を展開していて、「全米大ベストセラー」の書とのことですが、6年前に日本でベストセラーになった、高橋伸夫氏の『虚妄の成果主義』(日経BP社)に書かれていたことと、成果主義に対する批判的検証の手法も含め、論旨はほぼ同じであるように思えました。

 「内発的動機づけ」理論は、高橋氏のあの本によって日本のビジネス界でも広く知られるところとなり、ある種の心理主義に過ぎないのはないかという批判もあった一方で、その後も、太田肇氏による「承認欲求論」や、キャリア発達論とリンクさせた「自律的人材論」として、より実務に近いかたちで理論的に深耕されてきたように思います。

 そうした中で本書を読んでも、それほど"新しさ"を覚えないのは当然であり(本書を読んで「目から鱗が落ちた」と今さら言う方が問題)、むしろ、行動心理学などの分野の多くの先達たちが唱えたことが分りやすく解説されているので、原点に立ち返る意味での復習と自己啓発にはいいかもしれません。

 事例紹介も豊富で、ベストバイの元役員が編み出したROWEという、仕事の成果さえあげればどこでいつ何をやろうが構わないという仕事のスタイルを、あるシステム会社で導入したところ、効率が大幅に向上し、しかもこの環境に慣れた人は年収が上乗せされても転職しない傾向が強いとか、アトラシアンというシステム会社では3カ月に一度「Fedex Day」というのを設けていて、これは「24時間、好きなことをしていいが、その成果を必ず上げること」というものですが、このFedex Dayから売れ筋商品が生まれることもしばしばだといった事例は、確かに、先進事例として分りやすいことは分かりやすいです。でも、どこかで読んだことがあるようなものばかりと言えなくもありません

Daniel Pink in TED.jpg また、〈モチベーション3・0〉の3つの要素として、「自律性」「マスタリー(熟達)」「目的」を挙げていますが、やりがいのある仕事を自律性のもとですることができて、さらにそのことによってスキルの向上が図れるのであれば、当然のことながら「やる気」は持続するであろうし、それが自らの人生の目的と合致するのであれば、なおさらのことであるという、言わば、当たり前のことを言っているに過ぎないともとれます。

 帯に、「時代遅れの成果主義型ver.2.0は創造性を破壊する」「停滞を打破する新発想!」とあり、この点での"新味"は感じられなかったものの、同じく帯に、「あなたは、まだver.2.0のままです」ともあり、頭ではわかっていても、実際にはまだ「信賞必罰」的な(マクレガーの「Ⅹ理論」的な)考え方に捉われがちな経営者やマネジメント層に向けた、"自己啓発本"とみていいでしょう(結局のところ、それほど悪い本ではないが、もの足りないといったところか)。

 訳者は大前研一氏(の名前になっている)。マネジメント誌などで取り上げられ、人事専門誌などでも、この「3.0」という考え方に沿った連載などもありましたが、流行ること自体は別に構わないと思うけれど...。

 ダニエル・ピンクは、2011年の「Thinkers50-経営思想家ベスト50」にランクイン(29位)。最近、自己啓発家色を強めているけれど、この人の代表作はやはり、米国クリントン政権下で労働長官の補佐官、ゴア副大統領の首席スピーチライターを務めた後、ホワイトハウスを出て1年間にわたり全米をヒアリング調査して纏めた現代社会論(同時に未来社会論でもある)『フリーエージェント社会の到来』('02年/ダイヤモンド社)でしょう(実務者が自己啓発家に転じる例は日本でも見られるが...)。

モチベーション3.0文庫.jpgモチベーション3.0 文庫.jpg【2015年文庫化[講談社+α文庫]】

   


モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか (講談社+α文庫)


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