【1612】 ○ 大島 洋 『管理職の心得―リーダーシップを立体的に鍛える』 (2010/02 ダイヤモンド社) ★★★★

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管理職としてのリーダーシップ」のあり方を解説。理論と啓蒙のバランスがとれている。

管理職の心得 リーダーシップを立体的に鍛える.jpg管理職の心得―リーダーシップを立体的に鍛える』(2010/02 ダイヤモンド社)

 リーダーシップについて書かれた本は数多く、また、管理職の部下指導や部下とのコミュニケーションのあり方について書かれた本も多いですが、リーダーシップについて、企業経営の枠組みの中で、管理職の視点から体系的に解説された本は少なく、その点本書は、「管理職としてのリーダーシップ」に的を絞り、その全体象を示しているのが特徴的であると言えます。

 本書では、管理職としてのリーダーシップを、「自己のあり方」「他者との関わり方」「組織との向き合い方」という3つのフレームワークで"立体的"にとらえ、「自己」「他者」「組織」のそれぞれの視点ごとに、リーダーシップに関わる理論や概念の中から管理職にとって有用性の高いものを"厳選"し、その実践的な意味合いを平易に解説しています。

 MBAホルダーの著書らしく、マトリックスの図説によるリーダーシップ理論や概念の解説も多いため、理解しながら読み進むには、ある程度のコンセプチュアル(概念化)能力が必要。但し、テーマごとに起こりがちな事例が盛り込まれており、さらに、自己診断のためのチェックリストが挿入されていたりするため、若い読者であっても、自らが企業内で置かれている現実や、自分と上司や部下との関係に引き寄せて読むことが出来るかと思います(更には、章末に「まとめ」や「振り返り」項目が整理されていて、大変わかり易い)。

 管理職強化の方向性が、かつてのマネジメント力の強化から、時代の変化に対応したリーダーシップの強化へと移りつつある現況に即した内容の本であり、リーダーシップを組織のあり方との関係にまで拡げて論じる一方で、個人の成長にとっての"経験"の重要性を説くなど、理論と啓蒙のバランスがとれているのがいいです。

 リーダーシップについて書かれた本は、入門書であれば1理論を解説したもの(または、理論を羅列して個々に解説したもの)、啓蒙書であれば、1理論(またはそれをアレンジしたもの)を金科玉条のように唱えるか、自分個人の経験から得たことを絶対的な啓示の如く語るものが多いように思われ、そうした中では本書は、繰り返しになりますが、バランスがとれていると思います。

 本書内でのリーダーシップ理論自体の解説は、古典的なものから最近注目されているものまで、管理職にとっての「自己」「他者」「組織」のそれぞれのフレームの中で取り上げられており、例えば、「自己のあり方」を考える視点の中で、「パワー理論」や「PM理論」、「EQリーダーシップ」などが取り上げられています。
 但し、リーダーシップ理論を知ることを最終目的とした本ではないため、必ずしもそれらの理論の全てにおいて、名称や提案者、典拠が示されているわけではありません。

 管理職を目指すビジネスパーソンや、管理職を支援し、育成する立場にある人事部門や経営管理部門の実務家、更には、企業のエグゼクティブ層が読んでも得るところある本だと思いますが、実務家が管理職研修への利用等を想定して読むに際しては、論旨の背景としてあるリーダーシップ理論を、一応は全般的に、或は、関心を惹いたものについては個別的に、入門書乃至専門書でフォローしておくのが望ましいかと思います。

 著者も、そうしたことを想定してのことか、巻末には、参考文献の外に、各章に関連した書籍を「読書案内」として掲げています(これらを概観すると、理論の名称が示されていない部分についても、おおまかに典拠が分かる)。

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